しゃべる人形

リビングに集った猫たちが織りなす「猫会議」の光景は、放送開始から2時間が経過してもなお、視聴者の視線を釘付けにしていた。
坂上さんが持ち込んだ猫たちと、僕の家のチビ猫とでっかい猫。最初は距離を測り合っていた彼らだったが、いつの間にかリビングの特等席である窓辺に一列に並び、外を眺め始めた。まるでこれから始まる「何か」を予期しているかのように、みんなで一緒に、静かに雨上がりの夜空を見上げている。
「秋生くん、見てみろよ。あいつら、俺たちがごちゃごちゃ喋るよりずっとうまく、こうして『共生』してるんだぜ」
坂上さんが感心したように呟く。僕のスマホには、桜坂高校の仲間たちから絶え間なくメッセージが届いていた。理子ちゃんが「最高すぎる!これぞ命の奇跡だよ!」と叫び、あかりからは「今、みんなで教会の前で、この放送をスマホで見守ってるよ」という返信が届いた。
僕たちはバラバラの場所にいても、この猫たちの姿を通して、同じ物語を生きている。
「さて、生放送も残りわずかだ。最後に秋生くん、お前から何か全国の猫好き、そして物語を愛する若者たちに一言あるか?」
坂上さんがカメラを僕に向けた。僕は少しだけ緊張しながら、膝の上で喉を鳴らすでっかい猫の背中を撫でた。
「……僕たちは、雨の日も、パンデミックの夜も、一人じゃないんだと思います。言葉があれば繋がれるし、誰かとこうして命の温もりを分かち合うだけで、物語は続いていく。だから、これからも僕たちは書き続けます。自分たちが生きた証を、そして、明日への希望を」
僕の言葉が終わると同時に、画面の向こう側の視聴者たちから、SNSを通じて温かい反応が溢れ出した。それは、僕たちがクリスマス公演のために書き上げた脚本の結末にも負けないほどの、強烈な一体感だった。
放送終了の合図である「お疲れ様でした!」の声が響くと同時に、緊張の糸が切れたリビングに、猫たちののんびりとした欠伸が響く。坂上さんは満足げに、「いやあ、いい夜だったな。秋生くん、この猫たちは本当にすごいよ」と言って、帰路についた。
静寂が戻ったリビング。猫たちはすでに、僕の足元で団子になって眠り始めている。
僕は立ち上がり、窓を開けた。湿った夜風が、僕の頬を撫でる。
もうすぐクリスマスだ。あかりと僕が、そして理子ちゃんたち仲間が、あの教会のクリスマス会で迎える聖なる夜。その時、この猫たちはどんな物語を連れてきてくれるんだろう。
僕はスマートフォンの画面を閉じ、ただ静かに夜空を見上げた。
物語は終わらない。僕たちが生きている限り、この街の片隅で、奇跡は何度でも何度でも、雨上がりの虹のように生まれ続けるのだから。