しゃべる人形

テレビの中の「自分たち」に本気で威嚇を続ける二匹の姿は、またしても僕のスマートフォンによって切り取られ、ネットを通じて拡散された。もはやパンデミックの日常は、僕たちの猫を起点に回り始めているかのようにさえ思えた。
そんなある日、テレビ局のスタッフから連絡が入った。
「秋生くん、猫ちゃんたちの『テレビ出演』、ぜひ生中継でやりませんか?」
驚くべきことに、テレビ局は僕の動画を単に放送するだけでなく、僕の家とスタジオをリモートで繋ぐ企画を立てていた。
「これ、すごいことだよ。だって、俺たちの日常がそのままエンターテインメントになっちゃってるんだから」
オンラインで僕たちの話し合いに参加していたルナさんが、画面越しに嬉しそうに言った。
「秋生くん、この猫たちの騒動も一つの『物語』よ。悲しいニュースばかりの今、人々に笑顔を届けること。それも立派な、言葉にならない物語の形だわ」
僕は、汐見先生や佐藤、そしてあかりに相談した。あかりは画面の向こうで、僕の顔の傷を心配そうに見つめながらも、ふふっと笑った。
「秋生らしいね。でも、あんまり無理しないでね。猫ちゃんたちが、本当はテレビなんて嫌いかもしれないんだから」
その言葉通り、僕は猫たちの様子を最優先にすることにした。中継当日、テレビ局のプロがカメラを設置し、準備は整った。
本番開始。画面の向こうでは、あの大手ニュース番組のキャスターが僕と猫たちに問いかける。
「秋生くん、今、猫ちゃんたちは何を考えているんでしょうか?」
僕がカメラ越しに二匹の様子を映すと、案の定、チビ猫はモニターに映るキャスターの顔に向かって「フゥーッ!」と一喝。でっかい猫は、カメラのレンズに興味津々で、鼻をくっつけて真っ黒な画面を映し出した。
スタジオからは爆笑が起こる。
「いやあ、自由ですねぇ!」
その騒動を、学校の喫茶室に集まっていた仲間たちが、プロジェクターに映して見ていた。理子ちゃんが「最高!秋生、もっとやれー!」と叫び、正志がそれを見て苦笑いしているのが見える。
僕たちは、パンデミックという壁を前にしながらも、画面という窓を通じて、まるで一つの広場で遊んでいるかのように笑い合っていた。僕が猫と奮闘するこの光景は、もはや単なる動物動画ではなく、僕たち桜坂高校の生徒が「今を一生懸命生きている」という証拠映像のようなものになっていた。
放送が終わったあと、チビ猫はやっと気が済んだのか、僕の膝の上に乗って喉を鳴らし始めた。でっかい猫もその横でゴロゴロと眠りにつく。
窓の外はまだ静かな日常が続いているけれど、僕たちの心の中には、今日も虹のような繋がりがある。
「さて、次はどんな物語を書こうか」
僕はスマホを置いて、隣で眠る猫たちの温もりを感じながら、あかりにメッセージを送った。
「今日の中継、見てくれた?」
すぐに「見たよ。……最高に面白かった」と返信が来る。
僕たちの物語は、猫の鳴き声と、画面越しの絆を乗せて、明日もまた続いていく。