しゃべる人形

その動画の拡散は、もはや学校内の騒ぎでは収まらなかった。ABEMAのニュース番組を皮切りに、夕方のTBS『Nスタ』、さらには朝の6チャンネルの情報番組まで、僕の「猫との奮闘劇」は日本中の茶の間に流れ始めたのだ。
連日、新型コロナの感染者数や緊迫したニュースが並ぶ殺伐とした画面の中で、急に「シャァーッ!」という我が家のチビ猫の威嚇音が響き渡る。そのシュールなギャップが視聴者の心を掴んだのか、世間は一瞬の安らぎとして僕の動画を愛してくれた。
しかし、当の本人たち――チビ猫とでっかい猫は、全く別の反応を見せた。
ある日、何気なくテレビをつけると、たまたまその番組の特集で僕の動画が流れた。画面から自分たちの姿と、あの時の鋭い威嚇音が聞こえてきた瞬間、二匹はテレビの前へ飛び出した。
「ニャオォォォン!」
チビ猫は毛を逆立て、テレビの中の「自分」に向かって本気で威嚇を始めた。でっかい猫もつられて、テレビの画面に映る自分自身を不思議そうに見つめながら、前足でペシペシと叩いている。どうやらテレビの中の自分たちが「侵入者」だと思っているらしい。
僕はその様子を苦笑しながら眺めつつ、再びスマホでその光景を撮影した。
「おいおい、お前たちがテレビに出てるんだよ。……仲裁しようとした僕が引っかかれたおかげで、今や日本一有名な猫になったんだぞ」
僕の声は二匹には届かない。テレビの中の自分たちに一生懸命怒っている猫たち。その光景があまりに滑稽で、僕は思わず声を上げて笑ってしまった。
その様子を、オンラインで繋がっていた佐藤や理子ちゃんが見ていて、画面越しに大爆笑している。
「秋生、お前ん家の猫、スターの自覚がなさすぎるだろ!」
佐藤が笑い転げながら言う。学校に行けず、物理的な距離があっても、僕たちはこうして同じ瞬間に笑い合っている。テレビの中では重苦しいニュースが流れていても、僕たちの小さな部屋と画面の向こう側の仲間たちの間には、確実に温かい空気が流れていた。
猫たちの威嚇はしばらく続いた。僕の顔の引っかき傷は消えかけていたけれど、この二匹のおかげで、僕たちの日常はパンデミックの中でも最高に賑やかで、かけがえのない時間へと変わっていった。