汐見夏江さんがこの桜坂高校へ国語教師として赴任し、それまで国語を教えていた木家先生が図書室の主として物語の守護者となったことで、学校の空気は劇的に変わった。教科書という枠組みを超え、「今の自分たちの心を震わせる言葉」を共有する授業は、いつしか地域を巻き込む一大ムーブメントとなり、桜坂高校の国語科は全国から注目を集める「物語の聖地」として有名になっていった。
そんな矢先、世界を襲ったのが新型コロナウイルスの流行だった。
外出が制限され、誰もが閉塞感に押しつぶされそうになっていたあの日々。しかし、この街の若者たちは違った。僕たちは教室に集まれずとも、スマートフォンという名の「ペン」を握りしめた。
「家にいなければならないなら、その分だけ言葉を紡げばいい」
理子ちゃんの言葉は強かった。自宅という名の独房のような場所から、僕たちは「野いちご」というキャンバスへ、一斉に物語を書き殴った。孤独な夜、喫茶店で一晩過ごしたあの日々と同じように、誰もが自分だけの物語を必死に書き出し、それが電子の海を通じて誰かの心を救った。
この急激な時代の変化を、業界は見逃さなかった。スターツ出版の編集者たちが、この桜坂高校の取り組みに目をつけたのだ。
「これからの時代、物語は『どこで』学ぶかじゃない。誰と『どう共有する』かだ。桜坂高校の生徒たちが書く言葉には、今この時代に必要な『祈り』がある」
そう言って、スターツ出版は僕たちの学校を全面的に応援することになった。学校のWi-Fiからアップロードされる携帯小説の数は爆発的に増え、多くの生徒がデビューを果たした。かつては冷ややかな目で見られていた「携帯小説」という文化が、このパンデミックという暗闇の中で、多くの人々の心を照らす光へと昇華されたのだ。
図書室では、木家先生が届いたばかりのスターツ出版の新刊を整理しながら、嬉しそうに僕に言った。
「秋生、お前たちが始めたことは、もう誰にも止められないぞ。時代が、君たちの言葉を待っているんだ」
汐見夏江さんは、教室の教卓に立ち、かつて僕たちが読んだあの物語のように、生徒一人ひとりの心に寄り添う授業を続けている。
外の世界がどれだけ変わろうと、この学校の地下の喫茶室は、今日も新しい物語を待つ生徒たちで溢れている。タブレットの画面に映るカーソルが、心臓の鼓動のように点滅する。
僕たちは、このパンデミックという名の「雨」さえも、物語を深めるための演出だと受け取れるようになっていた。あかりと僕が、そして仲間たちが紡ぐ物語は、デジタルという回路を通って、今この瞬間も誰かの孤独を温めている。
桜坂高校の物語は、まだ始まったばかりだ。僕たちはもう二度と、自分の言葉を失うことはない。なぜなら、これほど多くの仲間と、そして僕たちの言葉を信じてくれる大人たちが、すぐ隣にいてくれるのだから。
そんな矢先、世界を襲ったのが新型コロナウイルスの流行だった。
外出が制限され、誰もが閉塞感に押しつぶされそうになっていたあの日々。しかし、この街の若者たちは違った。僕たちは教室に集まれずとも、スマートフォンという名の「ペン」を握りしめた。
「家にいなければならないなら、その分だけ言葉を紡げばいい」
理子ちゃんの言葉は強かった。自宅という名の独房のような場所から、僕たちは「野いちご」というキャンバスへ、一斉に物語を書き殴った。孤独な夜、喫茶店で一晩過ごしたあの日々と同じように、誰もが自分だけの物語を必死に書き出し、それが電子の海を通じて誰かの心を救った。
この急激な時代の変化を、業界は見逃さなかった。スターツ出版の編集者たちが、この桜坂高校の取り組みに目をつけたのだ。
「これからの時代、物語は『どこで』学ぶかじゃない。誰と『どう共有する』かだ。桜坂高校の生徒たちが書く言葉には、今この時代に必要な『祈り』がある」
そう言って、スターツ出版は僕たちの学校を全面的に応援することになった。学校のWi-Fiからアップロードされる携帯小説の数は爆発的に増え、多くの生徒がデビューを果たした。かつては冷ややかな目で見られていた「携帯小説」という文化が、このパンデミックという暗闇の中で、多くの人々の心を照らす光へと昇華されたのだ。
図書室では、木家先生が届いたばかりのスターツ出版の新刊を整理しながら、嬉しそうに僕に言った。
「秋生、お前たちが始めたことは、もう誰にも止められないぞ。時代が、君たちの言葉を待っているんだ」
汐見夏江さんは、教室の教卓に立ち、かつて僕たちが読んだあの物語のように、生徒一人ひとりの心に寄り添う授業を続けている。
外の世界がどれだけ変わろうと、この学校の地下の喫茶室は、今日も新しい物語を待つ生徒たちで溢れている。タブレットの画面に映るカーソルが、心臓の鼓動のように点滅する。
僕たちは、このパンデミックという名の「雨」さえも、物語を深めるための演出だと受け取れるようになっていた。あかりと僕が、そして仲間たちが紡ぐ物語は、デジタルという回路を通って、今この瞬間も誰かの孤独を温めている。
桜坂高校の物語は、まだ始まったばかりだ。僕たちはもう二度と、自分の言葉を失うことはない。なぜなら、これほど多くの仲間と、そして僕たちの言葉を信じてくれる大人たちが、すぐ隣にいてくれるのだから。

