しゃべる人形

教会の聖歌の響きを胸に、僕たちは桜坂高校へと戻った。この学校の地下には、地域に開かれた「喫茶室」という名の聖域がある。ここはWi-Fiが完備され、紙の本も携帯小説も等しく愛される場所だ。地域の人々も行き交うこの場所で、僕たちの物語はより大きなうねりを持とうとしていた。
喫茶室のテーブルに、理子ちゃん、ルナさん、春香、あんな、正男、正志、そして僕とあかりが集まった。理子ちゃんの進行でクリスマス公演の構想を練っていると、一人の少女が軽やかな足取りで近づいてきた。
「はじめまして」
その凛とした佇まいに、僕たちの空気が一瞬で引き締まる。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』の作者、汐見夏江さんだった。
僕は緊張しながらも、正直な思いを口にした。
「初めまして。……映画も観ました。本当に切なくて、涙が止まりませんでした。実は僕たちの国語の授業で、汐見さんの作品を扱ったんです」
すると汐見さんは柔らかく微笑んでくれた。
「まあ、そう言っていただけるなんて。ありがとうございます」
「あ、でも、実際には教科書の検定本には載っていないんです」と僕は慌てて補足した。
「この桜坂高校では、音楽も国語も、その時々で僕たちが本当に読みたい、歌いたいと願う『携帯小説』を題材にしているんです。教科書通りじゃない、僕たちの感性に響くものこそが、この学校の教科書ですから」
汐見さんはその説明を聞くと、驚く様子もなく、むしろ深く頷いて瞳を輝かせた。
「なんて素敵な学校なんでしょう。教科書に縛られず、魂が求める言葉に触れる。そんな学びの場から、あなたたちの物語が生まれているのね」
そこへ、騒がしい足音が近づいてきた。植松と、部長の佐藤だ。二人は汐見さんの前まで来ると、いつもの少しぶっきらぼうな態度で、しかしどこか誇らしげに言った。
「……悪いな、汐見先生。うちの生徒たちは相変わらず熱っぽくて、どうしようもなくしょうがねえ連中だろ。でもな、こいつらは何があってもやる気だけは一人前なんだ。……だから、どうかこいつらの背中を押してやってくれや」
佐藤部長も肩をすくめ、「本当に、手のかかる連中ですよ」と苦笑いしながらも、その目は温かく僕たちを見守っている。
汐見さんはその様子を愛おしそうに見つめ、ゆっくりと席に着いた。
「ええ、喜んで。こんなに素敵な生徒たちと物語の話ができるなら、どんな相談だって乗りましょう。さあ、次はどんな奇跡を準備するのかしら?」
喫茶室のコーヒーの香りが、漂い始めた。プロの作家であるルナさんと汐見さんが、僕たちの物語を挟んで向かい合っている。理子ちゃんが弾けるような笑顔で「じゃあ、さっそく第二幕の構成案を!」と声を上げると、テーブルの上のタブレットやノートが、希望に満ちた熱を帯び始めた。
僕たちのクリスマスは、もはや単なる劇の域を超えて、大人も子供も、生徒も地域の人々も巻き込む、街そのものを変えていく物語になろうとしていた。