しゃべる人形

理子ちゃんはさっそく教室の黒板に、チョークで「クリスマス公演・聖なる雨と虹の物語」と大きく書き殴った。その勢いに押されるように、教室の空気がガラリと変わる。春香は「衣装はどうする?やっぱり白かな?」と早くもあんなと相談を始め、正男は正志の肩を叩いて「おい、俺たちも聖歌隊か何かで出るのか?」と興奮を隠せない様子だった。
僕はあかりの手を引いて、少しだけその喧騒から離れた窓辺に立った。
彼女の頬は、先ほどまでの涙の余韻と、仲間たちから受けた祝福の言葉で、淡い桜色に染まっている。
「ねえ、秋生。キリスト教のこと、みんなに話して良かったのかな」
あかりが少し不安げに囁く。僕はその細い指先を優しく握り直し、ゆっくりと頷いた。
「大丈夫だよ。僕たちの信仰は、この寂しい雨の日の夜に、あかりを救うためにあったんだ。だからこそ、みんなの物語と交わっても、決して汚れることはない。むしろ、僕たちのささやかな祈りが、この学校のクリスマスを少しだけ温かいものにするはずだよ」
正志がこちらに歩み寄ってきて、無骨な手で僕の肩をポンと叩いた。普段は言葉少なな彼が、珍しく真っ直ぐな目で僕を見つめる。
「……お前の書く話には、熱がある。理子が興奮するのもわかるよ。このクリスマス、俺たちも全力で、お前たちのその物語を支えるよ」
その言葉に、理子ちゃんが「もちろん!最高のクリスマスにしようね!」と力強く応じた。教室中が、劇の完成に向けて一つの熱い意志で結ばれていくのを感じる。
僕が書いたあの拙い詩は、もう僕とあかりだけの秘密ではなくなった。
大人たちの冷ややかな視線や、利権にまみれた建築基準法などという無粋な檻を飛び越え、僕たちの物語は、この場所で信仰という名の光を放ち始めた。
「じゃあ、構成を練り直そう。クリスマスに、聖なる雨を降らせるために」
僕はスマホの音声入力アプリを起動した。
画面に浮かび上がる白い文字は、これから始まるクリスマスの奇跡を待っている。あかりが隣で小さく祈るように手を合わせた。その姿は、僕にとっての聖母そのものだった。
僕たちは、これまでのどんな脚本よりも深く、そして誰よりも温かい、物語の続きを書き始めた。雨は上がり、空には祝福の虹がかかろうとしている。この学校で、僕たちが迎える最初で最後の、聖なる夜のために。