しゃべる人形

教室のドアが勢いよく開き、グラウンドでの練習を終えた春香やあんな、そして正志と理子ちゃん、正男たちの一団がなだれ込んできた。
「あの一団、ずっと劇の練習やってたんだけど……。二人、そこで何やってんの?」
春香が不思議そうに首を傾げ、正男たちが口々に囃し立てる。気まずい沈黙が流れるかと思ったが、あかりは少し照れくさそうに、しかし誇らしげに微笑んで言った。
「ううん、物語を書いてたの。……私たちのお付き合いの話を」
その言葉を聞いた瞬間、理子ちゃんが原稿をひったくるようにして読み始めた。数秒後、彼女は弾かれたように顔を上げ、「ああ、これいいね!」と声を上げた。
「すごっ、ロマンチック! カップルっていいな、本当に最高」
理子ちゃんが屈託なく笑うのを見て、僕はつい皮肉っぽく言い返した。
「だって、そこには正志がいるじゃん。十分ロマンチックだろう?」
すると、理子ちゃんは少しだけ切ない目をして首を振った。
「いや、そういうもんじゃないんだよ。二人を見ているとね、なんだか無性に羨ましくなるの。普通のカップル以上に、何かが深く重なっている距離感っていうのかな」
理子ちゃんが突然「ああっ!」と興奮したように大声を上げた。「これ、超いい! この雨の日の話、今度のクリスマス公演でやろうよ!」
「クリスマスか、それはいいな!」正男たちが口を揃えて賛成する。
僕はふと思いつき、あかりと顔を見合わせた。
「クリスマスといえば、イエス・キリストが生まれた日だね。……じゃあ、この雨上がりの虹の話を、キリストの誕生と重ねて構成し直すのはどうだろう」
「それだ! それが一番いい!」
この学校は、一般的な高校とは異なり、文化祭の後にクリスマス会を盛大に行う伝統があった。僕たちは自然な流れで、あかりと僕が二人ともキリスト教の信者であることをみんなに明かした。
窓の外の雨音はいつの間にか止んでいた。理子ちゃんが目を輝かせ、正志がそれを見守るように微笑んでいる。僕たちの物語は、クリスマスの奇跡を纏い、より深く、より聖なるものへと書き換えられていく。僕とあかりの信仰が、この場所で全員の物語と溶け合おうとしていた。