しゃべる人形

あの日の雨は君の涙。改札で別れるのが寂しくて、僕も泣いた。その涙が雨に変わって街を濡らしたけれど、君が泣き止んだとき、空には虹がかかったんだ。それは僕たちが今日まで歩んできた、遠くへ繋がる道の証だよ。
読み終えた瞬間、教室の空気は止まったように思えた。あかりは僕の言葉を一つひとつ、まるで体温を確かめるように受け取っている。あの改札口での凍えるような別れと、その寂しさを埋めるために逃げ込んだ、あの夜の喫茶店の温かい珈琲の香り。一晩中、僕たちが言葉を交わさずとも、ただそこにいるだけで満たされていた時間が、この詩の中にすべて詰まっていた。
「わあ……」
あかりの喉から、小さな吐息のような声が漏れた。
彼女は僕の顔を見つめ、それからゆっくりと下を向く。溢れ出した涙が、彼女の手元にある原稿用紙にポトリと落ちた。それは悲しみの涙ではない。自分の寂しさを、これほどまでに正確に、そして美しく形にしてくれたことへの、深い感謝の涙だった。
「嬉しい……。本当に、嬉しい。私の心の中にあった、言葉にできなかった雨が、やっと晴れた気がする」
彼女は泣き笑いの表情で、僕の服の袖をぎゅっと掴んだ。
それは、図書室で正志たちが台本と向き合っているような、生半可な創作ではない。僕たちが一晩中喫茶店で寄り添い、凍えるような夜を越えたその「事実」が、虹となって彼女の心を照らしたのだ。
僕の信仰は、誰かに説くための教義ではない。こうして、目の前のあかりの涙を拭い、彼女の明日を少しだけ明るくするための、僕と君との間の約束なのだ。
窓の外では、まだ雨が降っているかもしれない。けれど、僕たちの心の中には、あの日からずっと続く虹がかかっている。
僕は彼女の肩をそっと抱き寄せ、この静かな教室内で、二人だけの新しいページを書き始めた。雨上がり、光が差し込むその瞬間を、僕たちは永遠に忘れまいと誓いながら。