しゃべる人形

正夫があかりを俺に紹介したのには、単なる友情以上の、もっと深い歴史があった。
二人は中学校からの幼馴染だった。当時のあかりは、その無垢な振る舞いゆえに、クラスの心ない連中から執拗な標的にされていた。正夫は、いつだってそのいじめの最前線に立ち、あかりをかばい続けていた。それは彼にとって、単なる正義感ではなく、幼い頃からの当たり前の日常だったのだ。
母親が仕事で帰宅の遅い夜、正夫は足繁くあかりの家へ通っていた。誰もいない静かな家で、あかりが寂しさを紛らわせられるようにと、宿題を教えたり、他愛のない話をして時間を潰したりしてやっていたのだ。まるで幼い兄妹のように、いや、それ以上に固い絆で、二人の時間は守られていた。
「俺がいないと、こいつは本当にどうにかなっちまいそうでさ」
かつて正夫がそう呟いた時の、あのどこか遠くを見るような寂しげな表情を、俺は今でも忘れられない。秋夫である俺に、あかりを紹介したのも、その重たい「守る」という役目を、唯一信頼できる俺と分け合いたかったからかもしれない。中学校の頃からずっと、あかりの小さな世界を一人で背負い続けてきた正夫の献身。それこそが、正夫とあかりを繋ぐ、誰にも入り込めない絆の正体だった。