しゃべる人形

上松の過去には、まことしやかな噂がつきまとっていた。ある夜、上松が突然あかりの家を訪れ、玄関先で子供のように声を上げて泣きじゃくったという話だ。そこで彼はあかりの母親に対し、震える声で結婚を懇願した。「あかりの人生を、一生かけて俺が責任を持って面倒を見る。俺にならそれができる」と。その異様なまでの切実さと誠実さに、どこか追い詰められていた母親もまた、彼との結婚を決めたのだった。
だが、その家庭環境は最初から歪んでいた。あかりが生まれた直後、実の父親は「障害のある子などいらない」と言い捨てて姿を消した。戸籍上は籍が入っているのかいないのかさえ曖昧なまま、その男は行方不明となり、あかりの家には常に父親不在の影と、社会的な孤立がつきまとっていた。そんな逃げ場のない孤独の中に、上松という歪んだ「救済者」が入り込んだのだ。変態と蔑まれる男の、身勝手で強烈な執着。それが、あかりとその母親を縛り付ける、新たな檻となった。