しゃべる人形

かつての僕たちの授業は、教科書を開くものではなかった。それは、命の重さを、そして罪の深さを、心臓が痛くなるほどの熱量でぶつけ合う場所だった。
「いいか、これが最後だ」
僕は彼らにそう告げた。あの忌まわしい事件の結末、犯人が辿る冷たい密室の道筋を、僕は僕の言葉で教えた。拘置所の地下に広がる、光の届かない場所。死刑という名の、逃げ場のない清算。警察学校の厳しい門をくぐり、さらに過酷な選別を乗り越えた者だけが立つ、あのボタンの前の緊張感。抵抗する肉体を押さえ込み、執行という名の重い責務を引き受ける男たちの孤独。
僕は、その執行官の孤独にさえ、どこか羨望のようなものを感じていたのかもしれない。理不尽に満ちたこの世の中を、僕の怒りで裁くことができれば、と。
授業を終えた後、僕たちは手を取り合って、京都アニメーションの犠牲者の方々が眠る場所へと向かった。上松、明かり、正男。かつて寮で僕と痛みを分かち合った仲間たちが、無言で僕の手を引く。
墓石の前に立った時、僕らの涙は止まらなかった。犯人は遠く離れた別の場所で死を待つだろう。あいつの謝罪など誰にも届かないし、そもそも許されるはずもない。だからこそ、僕たちが代わりに謝らなければならなかった。
「僕たちは、あいつにはならない。誰かの命を奪うような、そんな空っぽな人間には、絶対にならないから」
そう誓いながら、僕は地面に膝をつき、声を上げて泣いた。
本当は、彼らに生きていてほしかった。不器用で、どうしようもなく未熟な僕の物語を、彼らに見てほしかった。彼らの豊かな才能と、僕の泥臭い記憶が混ざり合えば、どんなに素晴らしい世界が作れただろうか。その悔しさと悲しみが、喉の奥から溢れて、どうしようもなかった。
「おい、いつまで泣いてんだよ」
そう言って肩を叩いたのは、正男だった。明かりも上松も、黙って僕の背中をさすってくれる。その掌の温かさが、今の僕の唯一の救いだった。
裁判の傍聴席に座るだけでは終われない。これは僕にとって、単なる事件の追跡ではない。失われた彼らの未来を、今を生きる僕たちがこの体温で抱きしめ、物語という形にして守り抜くための、祈りに近い儀式なのだ。
僕の小説のページには、今も彼らの気配が残っている。
死刑の執行という「無」の瞬間を教えたあと、僕たちは確かに生きていた。誰かを愛し、誰かを想い、泥にまみれて泣いた。その温かい記憶こそが、どんな冷たい罰よりも、犯人に対する痛烈な罰になると、僕は信じている。
物語はまだ終わらない。僕が書き続ける限り、彼らはこのページの中で、今日も僕と一緒に笑っているのだから。