父親の怒鳴り声が収まると、玄関のドアが乱暴に閉まる音がして、家の中は急に静まり返った。朝の5時から利権と建物の構造の話で頭を一杯にしていた父親は、嵐のように去っていった。
「のんの散歩はどうするんだよ!」
背中に向かって叫んでも、もう返事はない。残されたのは、置いてけぼりを食らって不安げに鳴く犬の「のん」と、訳も分からずニャーニャーと歩き回るでっかい猫、そして相変わらず自由奔放なチビ猫だけだ。
僕は時計を見た。学校へ向かうにはまだ少し時間がある。
「しょうがないな……」
僕がため息をつくと、でっかい猫が先導するように歩き出し、のんがその尻を追いかけるようにしてトコトコとついていった。僕もそれに続く。散歩というよりは、まるで小さな行列だ。朝の冷えた空気が少しだけ、さっきまでの父親の醜い会話を洗い流してくれる。
ところが、平穏は続かない。
チビが突然、隣家の畑へと一直線に駆け込んだ。飼い主の怒鳴り声が聞こえる。
「こらっ! またうちの畑で何してんだ! 追い払え!」
またか。チビは農具をひっくり返し、土を荒らしては何食わぬ顔でこちらを見ている。僕は急いで隣の人に頭を下げ、暴れるチビを抱え上げた。隣の人の険しい視線が、僕の背中に刺さる。僕の日常は、いつもどこかで誰かの迷惑になり、誰かに怒られることで成り立っている。
騒がしい散歩を終え、僕はそのまま学校へと向かった。
朝の光の中で、のんが尻尾を振って僕を見送る。猫たちは家の中へ戻り、また思い思いの場所で眠りにつくのだろう。父親の利権の話も、隣の畑のトラブルも、僕の感情をかき乱すには十分すぎる出来事だ。
けれど、学校の門が見えてくると、不思議と心が落ち着いてくる。
あかりが待っている。正男も、理子ちゃんも、みんなそこにいる。あそこには、父親の電話のような「損得」の基準はない。あるのは、僕たちが泥だらけになって作る「運命の詰め、奇跡の物語」と、誰かを想って泣き笑いする、不器用な体温だけだ。
僕は校門をくぐり、チビの毛がついた制服をパンパンと払った。
家庭の騒乱を背負っていても、一歩教室に入れば、僕は「僕」でいられる。劇の練習まであと少し。今日もまた、この無駄で愛おしい時間稼ぎを、全力で始めよう。
「のんの散歩はどうするんだよ!」
背中に向かって叫んでも、もう返事はない。残されたのは、置いてけぼりを食らって不安げに鳴く犬の「のん」と、訳も分からずニャーニャーと歩き回るでっかい猫、そして相変わらず自由奔放なチビ猫だけだ。
僕は時計を見た。学校へ向かうにはまだ少し時間がある。
「しょうがないな……」
僕がため息をつくと、でっかい猫が先導するように歩き出し、のんがその尻を追いかけるようにしてトコトコとついていった。僕もそれに続く。散歩というよりは、まるで小さな行列だ。朝の冷えた空気が少しだけ、さっきまでの父親の醜い会話を洗い流してくれる。
ところが、平穏は続かない。
チビが突然、隣家の畑へと一直線に駆け込んだ。飼い主の怒鳴り声が聞こえる。
「こらっ! またうちの畑で何してんだ! 追い払え!」
またか。チビは農具をひっくり返し、土を荒らしては何食わぬ顔でこちらを見ている。僕は急いで隣の人に頭を下げ、暴れるチビを抱え上げた。隣の人の険しい視線が、僕の背中に刺さる。僕の日常は、いつもどこかで誰かの迷惑になり、誰かに怒られることで成り立っている。
騒がしい散歩を終え、僕はそのまま学校へと向かった。
朝の光の中で、のんが尻尾を振って僕を見送る。猫たちは家の中へ戻り、また思い思いの場所で眠りにつくのだろう。父親の利権の話も、隣の畑のトラブルも、僕の感情をかき乱すには十分すぎる出来事だ。
けれど、学校の門が見えてくると、不思議と心が落ち着いてくる。
あかりが待っている。正男も、理子ちゃんも、みんなそこにいる。あそこには、父親の電話のような「損得」の基準はない。あるのは、僕たちが泥だらけになって作る「運命の詰め、奇跡の物語」と、誰かを想って泣き笑いする、不器用な体温だけだ。
僕は校門をくぐり、チビの毛がついた制服をパンパンと払った。
家庭の騒乱を背負っていても、一歩教室に入れば、僕は「僕」でいられる。劇の練習まであと少し。今日もまた、この無駄で愛おしい時間稼ぎを、全力で始めよう。

