上松先生――。
その名は、この学校においてある種、「禁忌」のような響きを伴って噂されていた。過去に受け持った生徒への不適切な関係で警察の世話になったこと、あろうことか教え子の母親と泥沼の末に結婚したこと。そんな黒い噂が、職員室の片隅から漏れ聞こえていた。普通なら教師を辞めるべき理由が、この男にはいくつもあった。
しかし、なぜか上松はここにいる。
教壇に立つその姿は、一見すればどこにでもいる「生徒思いの熱血教師」だった。身なりは清潔で、説教をする時の声も真っ直ぐだ。だが、その瞳の奥には、常に何かを計算し、虎視眈々と狙っているような冷酷な光が宿っている。
特に、あかりに対する接し方は異常なほど丁寧だった。
知的障害を抱えるあかりに対し、上松は他の教師が見せるような「憐れみ」や「事務的なあしらい」を一切見せない。まるで、自分にしか理解できない宝物を扱うかのような、過剰なまでの優しさ。だが、その優しさには、どこか粘着質な違和感があった。
「あかりちゃんはね、言葉にするのが難しいだけなんだよ。俺は、その心の中にある言葉にならない叫びを、いつも聞いてあげたいと思っている」
上松はそう言って、あかりの頭を優しく、しかし執拗に撫でる。
あかりはその手に従順に身を委ねるが、それが彼女にとって本当に安心できる場所なのか、それとも逃げ場のない檻なのか、俺には判別がつかわなかった。上松はあかりの「障害」という壁を、理解しているようでいて、その実、自分の都合の良いように書き換えようとしているのではないか。
そんな上松の歪んだ教育観と、あかりの無防備な笑顔。
その間に漂う澱んだ空気が、この学校を支配しているようで、俺はどうしようもない吐き気を覚えた。この男の「愛」が、一体どんな結末をあかりに与えるのか。俺にはまだ、予感することしかできなかった。
その名は、この学校においてある種、「禁忌」のような響きを伴って噂されていた。過去に受け持った生徒への不適切な関係で警察の世話になったこと、あろうことか教え子の母親と泥沼の末に結婚したこと。そんな黒い噂が、職員室の片隅から漏れ聞こえていた。普通なら教師を辞めるべき理由が、この男にはいくつもあった。
しかし、なぜか上松はここにいる。
教壇に立つその姿は、一見すればどこにでもいる「生徒思いの熱血教師」だった。身なりは清潔で、説教をする時の声も真っ直ぐだ。だが、その瞳の奥には、常に何かを計算し、虎視眈々と狙っているような冷酷な光が宿っている。
特に、あかりに対する接し方は異常なほど丁寧だった。
知的障害を抱えるあかりに対し、上松は他の教師が見せるような「憐れみ」や「事務的なあしらい」を一切見せない。まるで、自分にしか理解できない宝物を扱うかのような、過剰なまでの優しさ。だが、その優しさには、どこか粘着質な違和感があった。
「あかりちゃんはね、言葉にするのが難しいだけなんだよ。俺は、その心の中にある言葉にならない叫びを、いつも聞いてあげたいと思っている」
上松はそう言って、あかりの頭を優しく、しかし執拗に撫でる。
あかりはその手に従順に身を委ねるが、それが彼女にとって本当に安心できる場所なのか、それとも逃げ場のない檻なのか、俺には判別がつかわなかった。上松はあかりの「障害」という壁を、理解しているようでいて、その実、自分の都合の良いように書き換えようとしているのではないか。
そんな上松の歪んだ教育観と、あかりの無防備な笑顔。
その間に漂う澱んだ空気が、この学校を支配しているようで、俺はどうしようもない吐き気を覚えた。この男の「愛」が、一体どんな結末をあかりに与えるのか。俺にはまだ、予感することしかできなかった。

