しゃべる人形

桜坂高校の廊下には、初夏の陽光が白く差し込んでいる。だが、その眩しさを感じるたびに、僕の意識は二十年ほど前の、あの『里山の寮』へと引きずり戻される。
僕が通っていた盲学校の寮は、かつての刑場の影を飲み込んだまま、湿った土の匂いを漂わせていた。男子と女子の境界にある廊下は、真昼だというのに底知れぬ闇を孕んでいて、そこには決まって「お化けが出る」という噂が付きまとっていた。
カビの匂いが染み付いた畳、季節外れに飾られたお雛様の虚ろな視線。そして、誰も使いたがらない自習室の窓の外には、僕たちの小さな冒険の隠れ家である自転車小屋があった。
「怖い、怖いよ」
そう泣き叫ぶ弱視の少女の震えを、僕は今でも指先で覚えている。隣の部屋では、呪いに当てられたように何度も高い窓から身を投げ、足の爪を剥がした少年の絶望があった。大人はそれを「不注意」の一言で片付け、病院という名の物理的な避難所へ彼らを運んでいった。
だけど、僕たちには守るべきものがあった。
自転車小屋の影に隠した、捨て猫たち。親に捨てられた僕たちが、同じように路頭に迷う小さな命を必死に抱きしめていたあの場所だけは、お化けも立ち入ることができなかった。土曜日の夕暮れ、みんなで猫を抱え、温かな体温を分け合って帰省のバスを待ったあの瞬間。あれこそが、あの呪われたような寮の中で、僕たちが確かに生きていたという唯一の証拠だった。
六月の両親祭の夜、スイカ割りが終わると世界は途端に別の顔を見せた。僕は自分を試すように、あえて恐ろしい肝試しを選んだ。千葉駅の先にあるお墓まで、誰かの掠れた怖い話を聞きながら歩いたあの道のり。帰ってきてからのテント泊は、懐中電灯の小さな光さえも、闇に吸い込まれそうだった。夜の闇に潜む恐怖に耐えきれず、僕はテントの中で自分の意志とは無関係に幼い失敗をしてしまった。その情けなさと、グランドに掘られた大穴という、かつての野蛮でたくましい日常の記憶が、今も夜の湿り気に混ざって蘇る。
今のこの高校で、孤独を感じている彼女たちにも、いつかあの自転車小屋のような場所が見つかればいいと、僕は思う。