管理室の重い扉が開き、警備員と管理人が血相を変えて飛び出してきた。地下回廊を覆う電子的な喧騒――物語の選別という名の暴走――は、誰かによる作為的な破壊工作の結果だった。
犯人は、かつて魔法のiランドを崩壊させ、多くの読者を絶望させたあのエンジニアだった。京都アニメーションで抱いた歪んだ承認欲求の成れの果て、彼は自分のダサい小説を拒絶されたその恨みを、今度はこの「物語の聖域」へとぶつけていた。
彼はサーバーを物理的に破壊したのではない。Wi-Fiルーターの配線に意図的に火を放ち、その熱で回路を融解させた。さらに、あらかじめ用意していた別の部品を複雑に組み込むことで、システムを狂わせたのだ。選別アルゴリズムが「莉子ちゃんの作品以外をゴミと見なす」ように仕組んだのは、彼の悪意そのものだった。
しかし、その男の末路はあまりに滑稽で、同時に悍(おぞま)しいものだった。かつて彼が犯した現実の凶行――多くの罪なき人々を焼き、自らも重度の火傷を負ったあの日。彼は自身の犯した罪の代償として、空からヘリコプターで救急搬送された。
「あいつのためになぜ、俺たちの税金が使われたんだ?」
正志が拳を震わせながら呟く。誰かを傷つけ、物語を破壊する男が、運ばれる先で何千万円という公金を費やされ、命を繋ぎ止められた。他人の命を奪おうとした人間に、なぜ最高の医療と、逃走を防ぐための高度な護送が提供されるのか。彼は刑務所の中で死刑判決を受けながらも、なおも税金で食いつなぎ、司法という保護下に置かれている。
この男は、自分を拒絶した世界を憎むことでしか自らの存在を確認できない。京都での惨劇を繰り返すかのように、今度はデジタルという名の「学校の心臓部」に火を放った。
「莉子ちゃんの声を……物語を、ただの選別機械に変えやがったんだ」
僕は、崩れかけたサーバーラックの隙間に、その男が残した嘲笑のような焼損痕を見た。刑務所の中の男は、今も窓の外の空を見ているのだろうか。かつてヘリコプターの爆音とともに運び去られた彼が、自分を救ったはずの社会の仕組みを、心の底から嘲笑っている姿が目に浮かぶようだ。
地下室の照明が、不規則に明滅する。消去されたはずの膨大な小説のデータが、回路の焼ける臭いとともにデジタルの闇へと霧散していく。僕たちが5年かけて繋いだこの聖域は、一人の男の歪んだ執念によって、今、血塗られた物語の檻へと変貌しようとしていた。
「おい、管理室の方へ行くぞ。あいつが組み込んだ『別の部品』を物理的に引き抜くしかない」
僕たちは、莉子ちゃんの声が響く異様な地下道を駆け抜けた。それは、物語を守るための戦いであり、自分たちの青春を焼いたあの男の「悪意」を、僕たちの手で断ち切るための戦いでもあった。
犯人は、かつて魔法のiランドを崩壊させ、多くの読者を絶望させたあのエンジニアだった。京都アニメーションで抱いた歪んだ承認欲求の成れの果て、彼は自分のダサい小説を拒絶されたその恨みを、今度はこの「物語の聖域」へとぶつけていた。
彼はサーバーを物理的に破壊したのではない。Wi-Fiルーターの配線に意図的に火を放ち、その熱で回路を融解させた。さらに、あらかじめ用意していた別の部品を複雑に組み込むことで、システムを狂わせたのだ。選別アルゴリズムが「莉子ちゃんの作品以外をゴミと見なす」ように仕組んだのは、彼の悪意そのものだった。
しかし、その男の末路はあまりに滑稽で、同時に悍(おぞま)しいものだった。かつて彼が犯した現実の凶行――多くの罪なき人々を焼き、自らも重度の火傷を負ったあの日。彼は自身の犯した罪の代償として、空からヘリコプターで救急搬送された。
「あいつのためになぜ、俺たちの税金が使われたんだ?」
正志が拳を震わせながら呟く。誰かを傷つけ、物語を破壊する男が、運ばれる先で何千万円という公金を費やされ、命を繋ぎ止められた。他人の命を奪おうとした人間に、なぜ最高の医療と、逃走を防ぐための高度な護送が提供されるのか。彼は刑務所の中で死刑判決を受けながらも、なおも税金で食いつなぎ、司法という保護下に置かれている。
この男は、自分を拒絶した世界を憎むことでしか自らの存在を確認できない。京都での惨劇を繰り返すかのように、今度はデジタルという名の「学校の心臓部」に火を放った。
「莉子ちゃんの声を……物語を、ただの選別機械に変えやがったんだ」
僕は、崩れかけたサーバーラックの隙間に、その男が残した嘲笑のような焼損痕を見た。刑務所の中の男は、今も窓の外の空を見ているのだろうか。かつてヘリコプターの爆音とともに運び去られた彼が、自分を救ったはずの社会の仕組みを、心の底から嘲笑っている姿が目に浮かぶようだ。
地下室の照明が、不規則に明滅する。消去されたはずの膨大な小説のデータが、回路の焼ける臭いとともにデジタルの闇へと霧散していく。僕たちが5年かけて繋いだこの聖域は、一人の男の歪んだ執念によって、今、血塗られた物語の檻へと変貌しようとしていた。
「おい、管理室の方へ行くぞ。あいつが組み込んだ『別の部品』を物理的に引き抜くしかない」
僕たちは、莉子ちゃんの声が響く異様な地下道を駆け抜けた。それは、物語を守るための戦いであり、自分たちの青春を焼いたあの男の「悪意」を、僕たちの手で断ち切るための戦いでもあった。

