地下通路の中間地点に設けられたその広大なスペースは、まさに僕たちのオアシスだった。ただの無機質なコンクリート空間を「もったいない」という理由だけで、莉子ちゃんはとんでもない空間へと変貌させた。
「ここ、ただの通路にするのは面白くないでしょ? お腹が空いたらすぐに食べられて、課題もできる場所があったら最高じゃない?」
莉子ちゃんの鶴の一声で、地下道の一角にマクドナルドとサイゼリヤがオープンした。学校の地下にファストフードと安価なファミレスがあるという光景は、もはや異常だった。放課後、地下道に降りれば、マクドナルドのポテトの香ばしい匂いと、サイゼリヤのデカンタワインのような(実際はノンアルコールのドリンクバーだが)食欲をそそる香りが充満している。
さらに、莉子ちゃんはそこに最強のインフラを整えた。超高速のフリーWi-Fiだ。
「これなら、図書館の資料をダウンロードしながら、映画の編集もできるでしょ?」
その言葉通り、各テーブルにはコンセントが完備され、生徒たちは教科書ではなくタブレットやノートPCを広げていた。以前はあんなに嫌いだった勉強が、今ではここに来れば面白いほど捗る。Wi-Fiの電波に乗って、莉子ちゃんの映画のデータが、図書館のアーカイブが、僕たちの端末に次々と流れ込んでくる。
昼休みや放課後のサイゼリヤのボックス席は、いつも生徒で溢れかえっていた。ミラノ風ドリアを頬張りながら、さっきまで授業で習った内容を、図書館で調べた最新の映像資料と照らし合わせる。頭が悪いなんて言われていた連中が、地下道の環境ひとつで、驚くようなスピードで知識を吸収していく。
「あきお、この演出、どう思う?」
正志はマクドナルドのシェイクを片手に、タブレットの画面を僕に見せた。彼もまた、以前のSNSに依存していた頃の空虚な目はしていない。莉子ちゃんという存在がもたらした熱と、この地下のファミレスが提供する居心地の良さが、僕たちを「賢く」変えてしまった。
地下道は、もはや移動手段ではなかった。そこは、物語と現実、空腹と知的好奇心、そして莉子ちゃんへの思慕がすべて溶け合う、僕たちの新しい生活の拠点だった。天井の低い地下室に響くマクドナルドの注文番号のアナウンスと、サイゼリヤの注文用紙に鉛筆で書く音。
そして、その奥から聞こえてくる莉子ちゃんの柔らかな笑い声。
この5年をかけた地下工事は、僕たちの脳を、胃袋を、そして魂を完全に支配していた。僕はこの地下道の空気に少しだけ毒されていることを自覚しながら、手元の台本に目を落とした。殺人犯の父を演じる僕にとって、この温かく満たされた地下道は、時々、あまりにも眩しすぎて息が詰まりそうになる。
「ここ、ただの通路にするのは面白くないでしょ? お腹が空いたらすぐに食べられて、課題もできる場所があったら最高じゃない?」
莉子ちゃんの鶴の一声で、地下道の一角にマクドナルドとサイゼリヤがオープンした。学校の地下にファストフードと安価なファミレスがあるという光景は、もはや異常だった。放課後、地下道に降りれば、マクドナルドのポテトの香ばしい匂いと、サイゼリヤのデカンタワインのような(実際はノンアルコールのドリンクバーだが)食欲をそそる香りが充満している。
さらに、莉子ちゃんはそこに最強のインフラを整えた。超高速のフリーWi-Fiだ。
「これなら、図書館の資料をダウンロードしながら、映画の編集もできるでしょ?」
その言葉通り、各テーブルにはコンセントが完備され、生徒たちは教科書ではなくタブレットやノートPCを広げていた。以前はあんなに嫌いだった勉強が、今ではここに来れば面白いほど捗る。Wi-Fiの電波に乗って、莉子ちゃんの映画のデータが、図書館のアーカイブが、僕たちの端末に次々と流れ込んでくる。
昼休みや放課後のサイゼリヤのボックス席は、いつも生徒で溢れかえっていた。ミラノ風ドリアを頬張りながら、さっきまで授業で習った内容を、図書館で調べた最新の映像資料と照らし合わせる。頭が悪いなんて言われていた連中が、地下道の環境ひとつで、驚くようなスピードで知識を吸収していく。
「あきお、この演出、どう思う?」
正志はマクドナルドのシェイクを片手に、タブレットの画面を僕に見せた。彼もまた、以前のSNSに依存していた頃の空虚な目はしていない。莉子ちゃんという存在がもたらした熱と、この地下のファミレスが提供する居心地の良さが、僕たちを「賢く」変えてしまった。
地下道は、もはや移動手段ではなかった。そこは、物語と現実、空腹と知的好奇心、そして莉子ちゃんへの思慕がすべて溶け合う、僕たちの新しい生活の拠点だった。天井の低い地下室に響くマクドナルドの注文番号のアナウンスと、サイゼリヤの注文用紙に鉛筆で書く音。
そして、その奥から聞こえてくる莉子ちゃんの柔らかな笑い声。
この5年をかけた地下工事は、僕たちの脳を、胃袋を、そして魂を完全に支配していた。僕はこの地下道の空気に少しだけ毒されていることを自覚しながら、手元の台本に目を落とした。殺人犯の父を演じる僕にとって、この温かく満たされた地下道は、時々、あまりにも眩しすぎて息が詰まりそうになる。

