地下道の完成は、この学校の空気を一変させた。
コンクリートの冷たい質感と、どこか図書館の古い紙の匂いが混ざり合うその場所は、地上とは切り離された「静寂の回廊」となった。レンタル屋に並んだ無数のDVDケースが、莉子ちゃんの歩んできたキャリアの重みを物語っている。ネット配信の冷たい画面越しではなく、ここで手にとって選ぶという行為そのものが、僕たちの日常に少しだけ非日常の輝きを与えていた。
「あきおくん、この通路。ここを歩いていると、自分がどこにいるのか分からなくなるの」
莉子ちゃんはそう言って、地下道の壁を優しく撫でた。照明の明かりが、彼女の横顔に柔らかな影を落とす。僕の親父が率いる管見屋建設の職人たちが、寝食を忘れて掘り進めたこの道は、ただの通路ではない。それは莉子ちゃんの物語と、僕たちの現実を繋ぐ「動脈」だった。
その時、地下道の向こう側から、足音が響いてきた。
正志だ。彼は僕と莉子ちゃんの姿を見つけると、少しだけ照れくさそうに笑った。柔道着を脱ぎ捨て、私服姿の正志は、どこか解放されたような晴れやかな表情をしている。以前の、サバカンの彼女を追いかけてSNSの中で彷徨っていた頃の面影は、もうどこにもない。
「……あ、あきお。莉子。図書室のアーカイブ、新しい作品が入ったらしいぞ」
正志はそう言うと、莉子ちゃんの隣に自然な動作で並んだ。僕が演じている「殺人犯の父」という役は、ここへ来ると急に現実味を帯びて、胸を締め付ける。画面の中の殺人はフィクションだけれど、ここで正志と莉子ちゃんを見ていると、僕の胸の中の嫉妬や孤独だけが、異常なほどリアルに膨れ上がる。
僕たちは、この地下道という閉ざされた空間で、それぞれの「役」を演じ続けているのかもしれない。
「ねえ、あきおくん」
莉子ちゃんが僕の方を向く。その瞳には、すべてを見透かしたような、それでいてどこか切ない光が宿っていた。
「あきおくんが演じるその役、本当はもう、あなた自身の中にあるんでしょう?」
僕が答えに詰まると、地下道の奥深くから、誰かの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。それは誰の足音なのか。あるいは、この学校に潜む「何か」が、僕たちの物語に干渉し始めているのだろうか。
地下道は深く、暗い。けれど、莉子ちゃんがそこにいる限り、この場所はただのコンクリートの塊ではない。僕たちの愛憎と、物語の欲望が渦巻く、新たな聖域になりつつあった。
コンクリートの冷たい質感と、どこか図書館の古い紙の匂いが混ざり合うその場所は、地上とは切り離された「静寂の回廊」となった。レンタル屋に並んだ無数のDVDケースが、莉子ちゃんの歩んできたキャリアの重みを物語っている。ネット配信の冷たい画面越しではなく、ここで手にとって選ぶという行為そのものが、僕たちの日常に少しだけ非日常の輝きを与えていた。
「あきおくん、この通路。ここを歩いていると、自分がどこにいるのか分からなくなるの」
莉子ちゃんはそう言って、地下道の壁を優しく撫でた。照明の明かりが、彼女の横顔に柔らかな影を落とす。僕の親父が率いる管見屋建設の職人たちが、寝食を忘れて掘り進めたこの道は、ただの通路ではない。それは莉子ちゃんの物語と、僕たちの現実を繋ぐ「動脈」だった。
その時、地下道の向こう側から、足音が響いてきた。
正志だ。彼は僕と莉子ちゃんの姿を見つけると、少しだけ照れくさそうに笑った。柔道着を脱ぎ捨て、私服姿の正志は、どこか解放されたような晴れやかな表情をしている。以前の、サバカンの彼女を追いかけてSNSの中で彷徨っていた頃の面影は、もうどこにもない。
「……あ、あきお。莉子。図書室のアーカイブ、新しい作品が入ったらしいぞ」
正志はそう言うと、莉子ちゃんの隣に自然な動作で並んだ。僕が演じている「殺人犯の父」という役は、ここへ来ると急に現実味を帯びて、胸を締め付ける。画面の中の殺人はフィクションだけれど、ここで正志と莉子ちゃんを見ていると、僕の胸の中の嫉妬や孤独だけが、異常なほどリアルに膨れ上がる。
僕たちは、この地下道という閉ざされた空間で、それぞれの「役」を演じ続けているのかもしれない。
「ねえ、あきおくん」
莉子ちゃんが僕の方を向く。その瞳には、すべてを見透かしたような、それでいてどこか切ない光が宿っていた。
「あきおくんが演じるその役、本当はもう、あなた自身の中にあるんでしょう?」
僕が答えに詰まると、地下道の奥深くから、誰かの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。それは誰の足音なのか。あるいは、この学校に潜む「何か」が、僕たちの物語に干渉し始めているのだろうか。
地下道は深く、暗い。けれど、莉子ちゃんがそこにいる限り、この場所はただのコンクリートの塊ではない。僕たちの愛憎と、物語の欲望が渦巻く、新たな聖域になりつつあった。

