しゃべる人形

「この学校、本当に面白いね」
莉子ちゃんは、僕たちの教室に置かれた教科書をパラパラと捲りながら、目を輝かせた。そこには文学の名作ではなく、僕や莉子ちゃんが愛してやまない携帯小説の物語や、彼女が出演した映画の台本が、国語の教材として並んでいる。
「莉子ちゃん、この学校の国語のテストはすごいよ。君が出た映画のセリフの裏側にある感情を読み解くのが試験問題なんだ。僕は映画オタクだから、莉子ちゃんの出演作は全部暗記してる。おかげで国語だけはいつも満点さ」
僕が少し得意げに言うと、莉子ちゃんはコロコロと鈴を転がすような声で笑った。
「ふふっ、私の演技をそんなに分析してくれてたの? 恥ずかしいな。でも、他の科目は……?」
「あぁ、他の教科は……まあ、察してくれ。A(赤点)の常連だよ」
僕の正直すぎる告白に、あかりや遥たちも笑い出した。学校の成績はボロボロでも、好きなことに全力を注ぐこの場所なら、莉子ちゃんもきっと馴染めるはずだ。
「ねえ、せっかく莉子ちゃんが来るならさ……今度の文化祭、劇をやらない?」
あかりの提案に、教室が一気に熱を帯びた。
「劇! それいい! 莉子ちゃんが主演で、僕たちが脚本書いて……」
「監督は誰にする? やっぱり映画に詳しいあいつか?」
正志がニヤリと笑って僕の肩を叩く。莉子ちゃんも「私、ずっと夢見てたの。映画のセットの中じゃなくて、等身大の私たちで物語を作ること」と、心から楽しそうに頷いた。
僕たちの物語は、ただの「日常」から、いつの間にか「創作」の舞台へと足を踏み入れようとしていた。莉子ちゃんが持ち込んだプロの視点と、僕たちが積み上げてきた親父のブルドーザーの音、そしてあかりたちとの絆。それらが混ざり合い、どんな台本が生まれるのか。
「タイトル、どうする?」
莉子ちゃんの問いに、僕はペンを握りしめる。
「タイトルは……『運命が紡いだ奇跡の物語』。いや、もっと僕たちらしい、泥臭くて、騒がしくて、最高に愛おしい……『フラミジアの空と、ブルドーザーの汽笛』かな」
僕がそう言うと、莉子ちゃんは少し驚いた顔をして、すぐに深く頷いてくれた。
「素敵。それ、すごく私らしいわ」
教室の窓から見える空は、まるで映画のセットのように青く澄んでいる。いじめられた過去も、仕事の悩みも、全部この劇の糧にして、僕たちは最高の文化祭を作り上げようとしていた。
運命がループする映画のように、終わりのない悲劇を繰り返すのじゃない。僕たちは自分たちで脚本を書き換え、何度でも、何度でも、新しい奇跡を演じ続けるんだ。
「よし、文化祭まで突っ走ろう!」
みんなの掛け声が教室に響く。窓の外では、今日も遠くで誰かのブルドーザーが、未来を切り開くようにエンジンを唸らせていた。僕たちの、最高に忙しくて眩しい季節が、今まさに幕を開けようとしている。