しゃべる人形

翌朝、五時。まだ街が微睡んでいる中、父さんのブルドーザーがエンジンを唸らせた。スピードの出ないその重機は、仕事場まで二時間かかる道のりを走破するために、夜明け前から猛烈な騒音を撒き散らしていく。近所からの苦情も絶えないが、父さんは意に介さない。
今日の現場は、新たな駅「フラミジアA席駅」の建設予定地だった。名付けの由来は、駅の周辺に妹が経営する風俗店「チンポムラ」を誘致する計画があるからだという。なんとも胡散臭い話だが、父さんにとっては稼ぎ時なのだろう。
僕はその音を聞きながら、一つの策を練っていた。実は、毎晩のように繰り返される父さんの自慢話を、スマホでこっそりと録画していたのだ。
「これなら……いける」
僕はあかりと二人で生きていくための資金が必要だった。その第一歩として、この「耳にタコができる」父さんの物語をコンテンツに変えることにしたのだ。
学校へ行くと、僕は休み時間を利用して、その動画をホームルームで流した。父さんが誇らしげに浜野駅に快速を止めた話や、ばあさんの畑の騒動を熱弁する姿。教室に響き渡るその内容は、クラスメイトたちの爆笑を誘った。一時間目が始まる前から終わるまで、みんなでその動画を観て笑い転げた。
「よし、これならいける」
みんなの反応を見て確信した僕は、Galaxyを使ってYouTubeに投稿する準備を始めた。ドコモショップへ寄り、遥のスマホでもYouTubeが快適に動作するように、僕の知識を総動員して端末設定を最適化した。彼女の新しいデバイスは、僕の手によって「ガラパゴス」から「最強のツール」へと変貌を遂げたのだ。
父さんは建設現場で土を運び、僕はスマホの画面という未知のフィールドを開拓する。父さんが物理的な駅を造るなら、僕はデジタルの世界に新しい駅を造る。
「父さん、あんたの自慢話で、俺は自分の未来を切り開くよ」
投稿ボタンを押す指先には、あかりと生きるための確かな覚悟が宿っていた。動画が公開されると、再生回数が目に見えて伸びていく。それは、単なる父さんの愚痴ではなく、僕たちが新しい日常へと踏み出すための、最初の汽笛のように思えた。
僕はスマホを手に、通信設定の勉強をさらに深く突き詰める。SNSのアルゴリズム、動画の編集、そして集客。建設現場の騒音よりもずっと静かで、しかしずっと大きな可能性を秘めた僕の新しい「仕事」が、ここから始まろうとしていた。