正志をなだめ、ようやく自分の家に戻ったとき、時刻は深夜に差し掛かっていた。昨夜は遥にスマホの操作を教え、物語を紡いでいたせいで、強烈な眠気が僕を襲う。しかし、帰宅してテレビをつけた瞬間、僕は頭を抱えた。
今夜は、どうしても見たいドラマが二つ、同じ時間帯に放送されている。NHKの『神様のカルテ』と、テレビ朝日で放送される『車椅子のおまわりさんが解決した事件のドラマ』だ。どちらかを選ばなければならない。
僕はブルーレイレコーダーも録画機も持っていない。TVerを開けば民放のドラマはあとから追いかけられるが、NHKの『神様のカルテ』はそうはいかない。かといって、受信料を払いたくないという信念から、NHKプラスというアプリも僕のスマホには存在しない。
「どっちをリアルタイムで見るか……なんて贅沢な悩みなんだ」
そんなことを考えていると、親父がリビングに入ってきて、いつもの自慢話を始めた。
「いいか、今日もまた浜野駅に快速を止めてやったんだぞ。これだけ便利な駅になったのは、この俺のおかげなんだ……」
同じ話をもう何百回聞いただろう。耳にタコができるとはまさにこのことだ。ノンも、ちびも、あの大きな猫も、親父の言葉には全く興味を示さず、思い思いの場所で丸まって寝息を立てている。
親父の自慢話はさらに続く。次は近所のばあさんの話だ。台風で畑の作物がやられてしまったらしく、その怒りを近所の人たちにぶちまけて大騒ぎしたらしい。ばあさんが誰を怒鳴りつけたとか、どんな形相だったとか、親父は身振り手振りを交えて楽しそうに語っている。
ふと、僕はペンを止めた。テレビ画面の中のドラマと、目の前で繰り広げられる親父のめちゃくちゃな日常。どちらが面白いだろうか。
『神様のカルテ』の感動も、『車椅子のおまわりさん』の謎解きも捨てがたい。けれど、こうして猫たちが無視を決め込む中で、親父が語る「近所の騒動」の滑稽さや、繰り返される自慢話の愛おしさは、どんなドラマの脚本よりもリアルで、生々しい。
「……ま、NHKは諦めるか」
僕はテレビを消した。ドラマの結末よりも、目の前で今まさに進行している「親父の武勇伝」という名の喜劇を聞いている方が、今の僕にはずっと贅沢な時間に思えた。
猫たちが時折見せるあくびと、親父の止まらない語り。テレビよりもずっと騒がしく、そしてずっと優しい時間が、このリビングには流れている。ドラマを見逃したところで、僕の人生が揺らぐわけじゃない。むしろ、このくだらない日常こそが、僕が紡いでいる物語の最も大切な一節なのだと、改めてそう思った。
今夜は、どうしても見たいドラマが二つ、同じ時間帯に放送されている。NHKの『神様のカルテ』と、テレビ朝日で放送される『車椅子のおまわりさんが解決した事件のドラマ』だ。どちらかを選ばなければならない。
僕はブルーレイレコーダーも録画機も持っていない。TVerを開けば民放のドラマはあとから追いかけられるが、NHKの『神様のカルテ』はそうはいかない。かといって、受信料を払いたくないという信念から、NHKプラスというアプリも僕のスマホには存在しない。
「どっちをリアルタイムで見るか……なんて贅沢な悩みなんだ」
そんなことを考えていると、親父がリビングに入ってきて、いつもの自慢話を始めた。
「いいか、今日もまた浜野駅に快速を止めてやったんだぞ。これだけ便利な駅になったのは、この俺のおかげなんだ……」
同じ話をもう何百回聞いただろう。耳にタコができるとはまさにこのことだ。ノンも、ちびも、あの大きな猫も、親父の言葉には全く興味を示さず、思い思いの場所で丸まって寝息を立てている。
親父の自慢話はさらに続く。次は近所のばあさんの話だ。台風で畑の作物がやられてしまったらしく、その怒りを近所の人たちにぶちまけて大騒ぎしたらしい。ばあさんが誰を怒鳴りつけたとか、どんな形相だったとか、親父は身振り手振りを交えて楽しそうに語っている。
ふと、僕はペンを止めた。テレビ画面の中のドラマと、目の前で繰り広げられる親父のめちゃくちゃな日常。どちらが面白いだろうか。
『神様のカルテ』の感動も、『車椅子のおまわりさん』の謎解きも捨てがたい。けれど、こうして猫たちが無視を決め込む中で、親父が語る「近所の騒動」の滑稽さや、繰り返される自慢話の愛おしさは、どんなドラマの脚本よりもリアルで、生々しい。
「……ま、NHKは諦めるか」
僕はテレビを消した。ドラマの結末よりも、目の前で今まさに進行している「親父の武勇伝」という名の喜劇を聞いている方が、今の僕にはずっと贅沢な時間に思えた。
猫たちが時折見せるあくびと、親父の止まらない語り。テレビよりもずっと騒がしく、そしてずっと優しい時間が、このリビングには流れている。ドラマを見逃したところで、僕の人生が揺らぐわけじゃない。むしろ、このくだらない日常こそが、僕が紡いでいる物語の最も大切な一節なのだと、改めてそう思った。

