しゃべる人形

夕食時、僕の家には四人の仲間が集まっていた。
昨日までの激動が嘘のように、リビングにはレトルトのパスタの香りが漂っている。インスタントで、簡素な食事。でも、窓の外には穏やかな夜風が吹き、リビングには笑い声が満ちている。
「ねえ、これ、めちゃくちゃ美味しいね!」
遥がフォークを動かしながら、心からの笑顔を見せた。秋夫も、正夫も、杏奈も、あかりも、みんな同じだ。高級なレストランでも、SNSで話題の店でもない。ただ、こうして信頼できる仲間と一緒に、同じ釜の飯を食う。その「当たり前」の幸福感が、僕たちの乾いた心をじわじわと満たしていく。
「本当だね。疲れた体に、この味が染みるよ」
みんなが他愛のない話で盛り上がっているその時だった。テーブルの下で、ちびと母猫が顔を見合わせ、ヒソヒソと(人間には聞こえない声で)相談を始めた。
「……ねえ、私たちの分がないわよ」
「本当だ。人間たちがパスタで盛り上がって、忘れられてる」
二匹は僕たちに一言も告げず、器用にドアを開けて外へ出た。向かったのは近所のホームセンターだ。二匹で協力して新鮮な魚を調達すると、何事もなかったかのように帰宅し、自分の皿で優雅に食事を始めた。
そんな平和な空気を切り裂くように、玄関のドアが勢いよく開いた。帰ってきたのは、親父だった。そして、その後ろから飛び込んできたのは、うちの愛犬・ノンだ。
「ただいま……って、なんだこの人数は!」
親父が驚いて声を上げる中、足元でノンがワンワンと抗議の声を上げた。
「おいおい! 俺の飯もねえじゃねえか! 猫ばっかり食ってずるいぞ!」
まさかの犬までが言葉を理解し、主張している。ノンは文句を言いながら、ちびと母猫に「場所を空けろ」とばかりに促され、再び餌を買いに走り出した。猫たちと一緒に戻ってくると、三匹並んで満足げに自分の餌にありついた。
人間四人がレトルトのパスタを囲み、猫二匹と犬一匹がそれぞれの食事に集中する。家の中は騒がしくも、どこか奇妙な調和が保たれていた。
夜も更けて、そろそろ解散の時間になった。
「それじゃ、今日はこの辺で。……ありがとう」
あかりが立ち上がると、秋夫、正夫、杏奈、遥もそれぞれ立ち上がった。一歩玄関を出れば、そこにはまた、騒がしい日常と、個別の現実が待っている。でも、昨日の嵐を越えて、それぞれが新しい「自分」を手にしている。
「また明日、会おうね」
遥が新しいスマホのストラップを揺らしながら言った。
一人、また一人と夜の闇の中に消えていく背中を見送りながら、僕はドアを閉めた。家の中には、満腹になった猫たちとノンが、丸くなって眠り始めている。
テレビもつけない、SNSもチェックしない。ただ静かに、自分の呼吸の音だけを聞く。
僕たちの物語は、こうして誰にも邪魔されない「本当の日常」へと、確かに繋がっていた。