しゃべる人形

ショップを出て、公園で新しい端末の設定を確かめていた僕たちの前に、見覚えのある影が近づいてきた。国語科の桐谷(きりや)先生だった。
先生は僕たちを見つけるなり、目元を真っ赤にして駆け寄ってきた。
「……よかった。本当によかった。昨日は、どれだけ心配したか……」
先生の涙は、学校での「優等生を求める顔」ではなく、教え子を心から案じる一人の人間の顔だった。僕たちが昨日、川のほとりでどれほど死の縁に触れ、そしてどれほど大切なものを見つけたか。先生はすべてを理解しているかのように、僕たちの肩を一つずつ叩いた。
遥が少し照れくさそうに、新しいサムスンの電子書籍リーダーを取り出した。
「先生……私、スマホは解約しました。でも、国語の授業でみんなが読む携帯小説を読みたくて、これに買い換えたんです」
先生はそれを見て、驚いた後に、心からの安堵を込めて笑った。
「そうか。……お前たち、数学や歴史の点数はちっとも伸びないけれど、国語の授業で読む携帯小説に対する情熱だけは、誰よりも真面目だな」
その言葉に、四人は声を上げて笑った。優等生として縛られていた昨日までの僕たちには、先生のそんな冗談が、何よりも温かい救いに感じられた。足元では、ちびと母猫(母である猫)も、まるでその会話を楽しんでいるかのように、クックッと喉を鳴らして笑っていた。
先生は、足元にいる二匹の猫に気づくと、目を細めてしゃがみこんだ。
「おや、珍しいね。こんなところに二匹も。……君たちの飼い猫かい? 可愛いねぇ」
先生がその手で母猫の頭を撫でると、母である猫は少しだけ身をくすぐったそうにしながら、人間相手には見せないような、慈愛に満ちた目で先生を見つめ返した。僕たちは、そんな先生の横で、猫たちの正体を明かさずに、ただ静かに笑っていた。
「先生、私たち……もう、迷ったりしません」
僕がそう言うと、先生は空を見上げて、「ああ、今日は本当にいい天気だ」と呟いた。
公園の木漏れ日が、僕たちの新しい端末と、猫たち、そして先生の穏やかな笑顔を照らしている。学校という枠組みの中で、いつも「計算」や「成績」ばかりを追っていたあの国語の授業が、今はこうして、本当の意味で僕たちの心を豊かにする場所になっていた。
僕たちはそのまま、先生を囲んでしばらく話をした。SNSの恐ろしさも、昨日の嵐も、すべてが過去の物語になり、新しい日常のひとコマに変わっていく。
猫たちが時折、「にゃお」と相槌を打つたび、先生は「面白い猫だねぇ」と笑う。僕たちは、誰にも邪魔されない、この小さくて贅沢な時間を噛み締めていた。それは、どんな教科書にも載っていない、僕たちだけの「本当の国語の授業」だった。