「それ、いいね。お祝いしちゃおうよ」
正夫がそう言うと、秋夫も大きく頷いた。あかりはまるで小さな子供のようにその場で飛び跳ね、ぱちぱちと手を叩いて喜んだ。大人たちのスケジュールや、世間の「正しさ」なんて、もう誰の頭にもなかった。
「で、あかりはどこに行きたい?」
秋夫が尋ねると、あかりは少しだけ空を見上げて、迷うことなく答えた。
「あそこがいい。緑がいっぱいで、川が流れてるところ。……建物とか、人がたくさんいるところじゃなくて、ただ空と川があるところがいいな」
正夫は少し心配そうに眉をひそめた。
「でも、さっきまで台風が来てたんだよ。増水してるかもしれないし、足元だって危ないよ。ディズニーランドとか、もっと安全な場所に行こうよ」
しかし、あかりは首を横に振った。その瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。
「ううん、違うの。台風のあとの川だからいいの。怒ってるみたいに荒れた水が、だんだん落ち着いて穏やかな音に変わっていくでしょう? それを聞きたいの。……私たちと、同じだから」
あかりの言葉は、またしても秋夫の胸を打った。
かつては社会に適合できずに「壊れている」と言われていた彼女たちが、今、傷ついたあとの回復と再生を、自然の姿に重ね合わせている。
「……そうだな」
秋夫はあかりの隣に立ち、正夫に向かって言った。
「危ないかもしれないけど、あかりがそこまで言うなら、行ってみよう。……僕たち、そういう『危うい場所』でしか、本当の自分たちを感じられないのかもしれないから」
四人は、台風が去ったばかりの街を抜け、郊外の土手へと向かった。
土手に着くと、そこには秋夫の予想を超える光景が広がっていた。濁流の爪痕が残る岸辺と、そこから少しずつ静けさを取り戻していく川面。荒々しい水の飛沫が、まるで昨夜の自分たちの感情をそのまま描き出しているようだった。
「わあ……」
四人は土手の上に並んで座った。
吹き抜ける風には、雨の匂いと、土の匂い、そして少しだけ春の気配が混ざっている。あかりは川をじっと見つめ、その不規則な水音に耳を傾けていた。
「ねえ、聞いて。川も泣き止んだんだよ。……私たちみたいに」
あかりの言葉に、正夫は思わず杏奈の手を強く握った。
ディズニーランドの華やかなパレードや、商業施設の賑やかな音楽よりも、この、怒りと静けさが同居する土手の風のほうが、今の彼らには何倍も心地よかった。
四人は誰一人として、スマホを取り出すことも、未来の不安を語ることもなかった。ただ、目の前の川が、傷を癒すように流れていくのを眺めていた。そこには、大人が必死に隠したがる「弱さ」を肯定できる、優しい時間が流れていた。
正夫がそう言うと、秋夫も大きく頷いた。あかりはまるで小さな子供のようにその場で飛び跳ね、ぱちぱちと手を叩いて喜んだ。大人たちのスケジュールや、世間の「正しさ」なんて、もう誰の頭にもなかった。
「で、あかりはどこに行きたい?」
秋夫が尋ねると、あかりは少しだけ空を見上げて、迷うことなく答えた。
「あそこがいい。緑がいっぱいで、川が流れてるところ。……建物とか、人がたくさんいるところじゃなくて、ただ空と川があるところがいいな」
正夫は少し心配そうに眉をひそめた。
「でも、さっきまで台風が来てたんだよ。増水してるかもしれないし、足元だって危ないよ。ディズニーランドとか、もっと安全な場所に行こうよ」
しかし、あかりは首を横に振った。その瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。
「ううん、違うの。台風のあとの川だからいいの。怒ってるみたいに荒れた水が、だんだん落ち着いて穏やかな音に変わっていくでしょう? それを聞きたいの。……私たちと、同じだから」
あかりの言葉は、またしても秋夫の胸を打った。
かつては社会に適合できずに「壊れている」と言われていた彼女たちが、今、傷ついたあとの回復と再生を、自然の姿に重ね合わせている。
「……そうだな」
秋夫はあかりの隣に立ち、正夫に向かって言った。
「危ないかもしれないけど、あかりがそこまで言うなら、行ってみよう。……僕たち、そういう『危うい場所』でしか、本当の自分たちを感じられないのかもしれないから」
四人は、台風が去ったばかりの街を抜け、郊外の土手へと向かった。
土手に着くと、そこには秋夫の予想を超える光景が広がっていた。濁流の爪痕が残る岸辺と、そこから少しずつ静けさを取り戻していく川面。荒々しい水の飛沫が、まるで昨夜の自分たちの感情をそのまま描き出しているようだった。
「わあ……」
四人は土手の上に並んで座った。
吹き抜ける風には、雨の匂いと、土の匂い、そして少しだけ春の気配が混ざっている。あかりは川をじっと見つめ、その不規則な水音に耳を傾けていた。
「ねえ、聞いて。川も泣き止んだんだよ。……私たちみたいに」
あかりの言葉に、正夫は思わず杏奈の手を強く握った。
ディズニーランドの華やかなパレードや、商業施設の賑やかな音楽よりも、この、怒りと静けさが同居する土手の風のほうが、今の彼らには何倍も心地よかった。
四人は誰一人として、スマホを取り出すことも、未来の不安を語ることもなかった。ただ、目の前の川が、傷を癒すように流れていくのを眺めていた。そこには、大人が必死に隠したがる「弱さ」を肯定できる、優しい時間が流れていた。

