翌朝、台風が去った空は、信じられないほど突き抜けるような青さを見せていた。
ラブホテルの窓を開けると、街はまだ昨夜の爪痕をあちこちに残していたが、空気だけは洗われたように澄んでいた。正夫と杏奈は、昨夜の出来事が嘘のように、静かに身支度を整えた。制服はまだ少し湿っていて、微かに安っぽいホテルの芳香剤の匂いが染み付いている。
「ねえ、正夫」
杏奈が鏡の前で乱れた髪を直しながら、ふと呟いた。
「私たち、もう戻れないね。元の場所には」
正夫は杏奈の背中に手を回し、鏡越しに彼女の瞳を見つめた。昨日のような悲壮感はない。その代わり、そこには何かを通り越した後の、静かな覚悟が宿っていた。
「ああ。ニュースを読むのも、いい子でいるのも、もう飽きた」
二人がホテルの重い扉を開けて外に出ると、眩しい光が二人を射抜いた。街は、いつも通りに動き始めていた。電車は動き出し、人々はまた計算高く、損得を気にしながら駅へと急いでいる。
だが、二人の目には、その光景が全く違って見えた。あかりが雨を見て涙を感じ、秋夫がその純粋さに救われたように、二人はこの街の中に流れる「誰にも見えない痛み」を感じ取っていた。
駅の改札へと向かう道すがら、二人はすれ違う大人たちの顔を眺めた。誰一人として、本音で笑っていないように見えた。
「ねえ、あそこで何してるんだろ」
杏奈が駅前の広場を指差した。そこには、秋夫とあかりが、雨上がりのアスファルトに映る水たまりを覗き込んで、何かを話していた。
正夫と杏奈は、吸い寄せられるように二人の元へと歩み寄った。秋夫は驚いたような顔をしたが、すぐに二人の目の奥を見て、すべてを察したように穏やかに微笑んだ。
「お前ら、昨日は大変だったんだって?」
秋夫がそう言って笑うと、あかりがパッと顔を輝かせた。あかりは、昨夜の雨が二人の涙を運んでいったことを知っているかのように、杏奈の手をぎゅっと握った。
「雨、止んだね」
あかりがそう言うと、正夫は空を見上げた。
「ああ。止んだよ。……俺たち、今日から何しようか」
正夫の問いかけに、答えを急ぐ者は誰もいなかった。秋夫、あかり、正夫、杏奈。四人は、損得勘定という檻からこぼれ落ちた者同士として、ただ、この光に満ちた街の中に立っていた。
彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。大人の計算が支配するこの街で、壊れたままの自分たちを肯定し、ありのままの言葉を紡いでいくという、ちっぽけで、でも誰よりも贅沢な革命が。
正夫は杏奈の手を握り直し、一歩を踏み出した。その足取りは、もう誰の目も気にしていなかった。彼らは、それぞれの「本当の人生」を生きるために、光の中へと溶け込んでいった。
ラブホテルの窓を開けると、街はまだ昨夜の爪痕をあちこちに残していたが、空気だけは洗われたように澄んでいた。正夫と杏奈は、昨夜の出来事が嘘のように、静かに身支度を整えた。制服はまだ少し湿っていて、微かに安っぽいホテルの芳香剤の匂いが染み付いている。
「ねえ、正夫」
杏奈が鏡の前で乱れた髪を直しながら、ふと呟いた。
「私たち、もう戻れないね。元の場所には」
正夫は杏奈の背中に手を回し、鏡越しに彼女の瞳を見つめた。昨日のような悲壮感はない。その代わり、そこには何かを通り越した後の、静かな覚悟が宿っていた。
「ああ。ニュースを読むのも、いい子でいるのも、もう飽きた」
二人がホテルの重い扉を開けて外に出ると、眩しい光が二人を射抜いた。街は、いつも通りに動き始めていた。電車は動き出し、人々はまた計算高く、損得を気にしながら駅へと急いでいる。
だが、二人の目には、その光景が全く違って見えた。あかりが雨を見て涙を感じ、秋夫がその純粋さに救われたように、二人はこの街の中に流れる「誰にも見えない痛み」を感じ取っていた。
駅の改札へと向かう道すがら、二人はすれ違う大人たちの顔を眺めた。誰一人として、本音で笑っていないように見えた。
「ねえ、あそこで何してるんだろ」
杏奈が駅前の広場を指差した。そこには、秋夫とあかりが、雨上がりのアスファルトに映る水たまりを覗き込んで、何かを話していた。
正夫と杏奈は、吸い寄せられるように二人の元へと歩み寄った。秋夫は驚いたような顔をしたが、すぐに二人の目の奥を見て、すべてを察したように穏やかに微笑んだ。
「お前ら、昨日は大変だったんだって?」
秋夫がそう言って笑うと、あかりがパッと顔を輝かせた。あかりは、昨夜の雨が二人の涙を運んでいったことを知っているかのように、杏奈の手をぎゅっと握った。
「雨、止んだね」
あかりがそう言うと、正夫は空を見上げた。
「ああ。止んだよ。……俺たち、今日から何しようか」
正夫の問いかけに、答えを急ぐ者は誰もいなかった。秋夫、あかり、正夫、杏奈。四人は、損得勘定という檻からこぼれ落ちた者同士として、ただ、この光に満ちた街の中に立っていた。
彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。大人の計算が支配するこの街で、壊れたままの自分たちを肯定し、ありのままの言葉を紡いでいくという、ちっぽけで、でも誰よりも贅沢な革命が。
正夫は杏奈の手を握り直し、一歩を踏み出した。その足取りは、もう誰の目も気にしていなかった。彼らは、それぞれの「本当の人生」を生きるために、光の中へと溶け込んでいった。

