放課後の喧騒が消えた駅の改札前。しとしとと降り続く雨の音が、四人の周囲を隔絶された空間に変えていた。
「じゃあ、ここで。また明日ね」
遥がそう言って、正志の肩を叩く。彼らは先に改札を抜け、雨の降る街へと消えていった。しかし、正夫と杏奈は、まるで磁石に吸い寄せられるように、その場から動くことができなかった。雨で濡れた制服の袖越しに、正夫が杏奈の手を強く握りしめる。
「……帰りたくない」
正夫の言葉は、まるで子供が駄々をこねるように震えていた。今まで優等生として、台本通りの人生を演じてきた正夫の顔が、今は崩れ落ちそうなくらい悲しげに歪んでいる。
「杏奈、ずっと前から……ずっと前から、君が好きだった。いじめられて泣いてたあの頃から、全部知ってた。世間が君をどう言おうと、俺は君のその、計算できない真っ直ぐな心がずっと好きだったんだ」
杏奈は、目から溢れ出る涙を拭おうともせず、正夫の手を握り返した。
「私も……私もだよ、正夫。秋夫さんとあかりさんのように、誰かを羨むんじゃなくて、私たちも二人のようになりたいって、ずっと思ってたの」
周囲の視線も、電車の発車ベルも、もはや二人の耳には届かない。二人は改札という「日常の境界線」を越えた。だが、彼らが向かう先は、自宅への帰路ではない。
「行こう。どこでもいい。大人たちの計算が届かない場所へ」
二人は傘も差さずに、土砂降りの雨の中へと駆け出した。目的地などない。ただ、冷たい雨に打たれながら、自分たちを縛っていた「正しさ」を洗い流したかったのだ。
彼らが向かったのは、駅から少し離れた、高架下の古い公園だった。そこには、忘れ去られたように錆びた遊具があり、雨宿りをする場所さえろくにない。しかし、その場所こそが、彼らにとっては「自分たちの世界」の入り口だった。
雨の中、二人は滑り台の下の狭い空間に身を潜めた。
正夫の制服のネクタイは雨で濡れ、杏奈の髪も乱れていた。優等生たちの仮面は完全に剥がれ落ちている。
「ここなら、誰も私たちを『ニュースの素材』や『評価の対象』としては見ないよね」
正夫が笑うと、杏奈もそれに応えて笑った。雨音は先ほどよりも激しくなり、まるで世界が二人を隠そうとしているかのように、視界を白く染め上げている。
二人はそこで、ただじっと座っていた。言葉はいらない。秋夫とあかりがそうであったように、ただ互いの存在を感じるだけでいい。計算も、利害も、損得もない。ただ、「今、ここにいる」という確かな鼓動だけが、彼らの身体を熱くさせていた。
「ねえ、正夫」
雨の音に消えそうな声で、杏奈が呼びかける。
「もう二度と、あの大人の計算高い世界には戻りたくないね」
正夫は頷き、再び杏奈の手を握りしめた。雨は容赦なく降り続く。けれど、二人はもう、その雨を「悲しみ」だとは思っていなかった。それは、二人が新しく生まれ変わるための、冷たくて温かい産湯だった。
彼らはそこで、夜が明けるまで、ただ雨音に耳を傾け続けることを決めた。大人たちが知らない、二人だけの静かな革命が、そこで始まったのだ。
「じゃあ、ここで。また明日ね」
遥がそう言って、正志の肩を叩く。彼らは先に改札を抜け、雨の降る街へと消えていった。しかし、正夫と杏奈は、まるで磁石に吸い寄せられるように、その場から動くことができなかった。雨で濡れた制服の袖越しに、正夫が杏奈の手を強く握りしめる。
「……帰りたくない」
正夫の言葉は、まるで子供が駄々をこねるように震えていた。今まで優等生として、台本通りの人生を演じてきた正夫の顔が、今は崩れ落ちそうなくらい悲しげに歪んでいる。
「杏奈、ずっと前から……ずっと前から、君が好きだった。いじめられて泣いてたあの頃から、全部知ってた。世間が君をどう言おうと、俺は君のその、計算できない真っ直ぐな心がずっと好きだったんだ」
杏奈は、目から溢れ出る涙を拭おうともせず、正夫の手を握り返した。
「私も……私もだよ、正夫。秋夫さんとあかりさんのように、誰かを羨むんじゃなくて、私たちも二人のようになりたいって、ずっと思ってたの」
周囲の視線も、電車の発車ベルも、もはや二人の耳には届かない。二人は改札という「日常の境界線」を越えた。だが、彼らが向かう先は、自宅への帰路ではない。
「行こう。どこでもいい。大人たちの計算が届かない場所へ」
二人は傘も差さずに、土砂降りの雨の中へと駆け出した。目的地などない。ただ、冷たい雨に打たれながら、自分たちを縛っていた「正しさ」を洗い流したかったのだ。
彼らが向かったのは、駅から少し離れた、高架下の古い公園だった。そこには、忘れ去られたように錆びた遊具があり、雨宿りをする場所さえろくにない。しかし、その場所こそが、彼らにとっては「自分たちの世界」の入り口だった。
雨の中、二人は滑り台の下の狭い空間に身を潜めた。
正夫の制服のネクタイは雨で濡れ、杏奈の髪も乱れていた。優等生たちの仮面は完全に剥がれ落ちている。
「ここなら、誰も私たちを『ニュースの素材』や『評価の対象』としては見ないよね」
正夫が笑うと、杏奈もそれに応えて笑った。雨音は先ほどよりも激しくなり、まるで世界が二人を隠そうとしているかのように、視界を白く染め上げている。
二人はそこで、ただじっと座っていた。言葉はいらない。秋夫とあかりがそうであったように、ただ互いの存在を感じるだけでいい。計算も、利害も、損得もない。ただ、「今、ここにいる」という確かな鼓動だけが、彼らの身体を熱くさせていた。
「ねえ、正夫」
雨の音に消えそうな声で、杏奈が呼びかける。
「もう二度と、あの大人の計算高い世界には戻りたくないね」
正夫は頷き、再び杏奈の手を握りしめた。雨は容赦なく降り続く。けれど、二人はもう、その雨を「悲しみ」だとは思っていなかった。それは、二人が新しく生まれ変わるための、冷たくて温かい産湯だった。
彼らはそこで、夜が明けるまで、ただ雨音に耳を傾け続けることを決めた。大人たちが知らない、二人だけの静かな革命が、そこで始まったのだ。

