校舎の窓を叩く雨音は、放送室の防音壁によって完全に遮断されていた。
高校生の正や正尾、そして遥たちにとって、この台風の日は「学校が早く終わるか、それとも補講になるか」という、目先の利害で動く一日だった。
放送部の機材に囲まれた彼らは、まるで小さな「テレビ局」の縮図の中にいた。正尾アナ(を模したような優等生の正尾)は、手元の原稿を読み上げる練習をしている。その声は正確で、澱みがない。しかし、そこに血の通った響きはなかった。
「はい、そこ語尾が軽い。もっとニュースっぽく読んで」
遥が指示を出す。彼女にとってのニュースは、伝えるべき事実そのものではなく、「いかに周囲に認められるか」という採点対象だった。
彼らは、秋夫とあかりの世界とは対極にいる。彼らにとって雨は「濡れると面倒なもの」であり、誰かの涙や記憶を運ぶものだとは露ほども思っていない。
「ねえ、昨日のSNS見た? あの動画、バズってたよ」
正尾がスマートフォンを覗き込む。画面には、誰かのイントロだけを切り取って繋ぎ合わせた、TikTokの動画が流れていた。彼らはそれを「面白い」とは言わず、「トレンドだから」という理由で消費している。
「あかりっていう女、変だよね。わざわざあんな雨の日に、映画観て泣くとかさ。エモいとか思ってんのかな?」
遥が冷めた笑みを浮かべる。彼女たちは、秋夫とあかりの繋がりを「理解できないもの」として、安全圏から冷笑することで自分たちの優位性を保っていた。彼女たちにとって、自分の本音を晒すことは「敗北」であり、計算して要領よく振る舞うことが「賢い生き方」だった。
放送室のスピーカーから流れるのは、機械的に合成されたような、滑らかな彼らの声。
「……でもさ」
正尾がふと、窓の外の激しい雨に視線をやった。
「あいつら、あんな雨の日に何してんだろね。俺らと違って、何にも計算しないで生きてるみたいだけど」
その言葉に、遥は少しだけ眉をひそめた。その問いかけは、彼女たちが何よりも恐れている「打算のない世界」への、無意識の恐怖だった。
「……どうでもいいよ、そんなこと。そんなこと考えてたら、この原稿終わらないでしょ」
遥は遮るように言った。彼女たちは、秋夫とあかりという「ブレーキの壊れた人間」を直視できない。もし見てしまったら、自分たちが必死に積み上げている「計算された高校生活」が、砂の城のように崩れてしまうことを、心のどこかで分かっているからだ。
雨は止まない。放送室の中で、彼らは完璧な「大人」の真似事を続ける。大人たちの台本通りに、感情を殺し、損得で語る。
その向こう側で、秋夫とあかりが雨音を聴きながら、世界で一番贅沢な時間を過ごしていることも知らずに。彼らはただ、次にくるテストの点数や、誰にどう見られるかという、ひどく狭い檻の中で、静かに消耗していく。
高校生の正や正尾、そして遥たちにとって、この台風の日は「学校が早く終わるか、それとも補講になるか」という、目先の利害で動く一日だった。
放送部の機材に囲まれた彼らは、まるで小さな「テレビ局」の縮図の中にいた。正尾アナ(を模したような優等生の正尾)は、手元の原稿を読み上げる練習をしている。その声は正確で、澱みがない。しかし、そこに血の通った響きはなかった。
「はい、そこ語尾が軽い。もっとニュースっぽく読んで」
遥が指示を出す。彼女にとってのニュースは、伝えるべき事実そのものではなく、「いかに周囲に認められるか」という採点対象だった。
彼らは、秋夫とあかりの世界とは対極にいる。彼らにとって雨は「濡れると面倒なもの」であり、誰かの涙や記憶を運ぶものだとは露ほども思っていない。
「ねえ、昨日のSNS見た? あの動画、バズってたよ」
正尾がスマートフォンを覗き込む。画面には、誰かのイントロだけを切り取って繋ぎ合わせた、TikTokの動画が流れていた。彼らはそれを「面白い」とは言わず、「トレンドだから」という理由で消費している。
「あかりっていう女、変だよね。わざわざあんな雨の日に、映画観て泣くとかさ。エモいとか思ってんのかな?」
遥が冷めた笑みを浮かべる。彼女たちは、秋夫とあかりの繋がりを「理解できないもの」として、安全圏から冷笑することで自分たちの優位性を保っていた。彼女たちにとって、自分の本音を晒すことは「敗北」であり、計算して要領よく振る舞うことが「賢い生き方」だった。
放送室のスピーカーから流れるのは、機械的に合成されたような、滑らかな彼らの声。
「……でもさ」
正尾がふと、窓の外の激しい雨に視線をやった。
「あいつら、あんな雨の日に何してんだろね。俺らと違って、何にも計算しないで生きてるみたいだけど」
その言葉に、遥は少しだけ眉をひそめた。その問いかけは、彼女たちが何よりも恐れている「打算のない世界」への、無意識の恐怖だった。
「……どうでもいいよ、そんなこと。そんなこと考えてたら、この原稿終わらないでしょ」
遥は遮るように言った。彼女たちは、秋夫とあかりという「ブレーキの壊れた人間」を直視できない。もし見てしまったら、自分たちが必死に積み上げている「計算された高校生活」が、砂の城のように崩れてしまうことを、心のどこかで分かっているからだ。
雨は止まない。放送室の中で、彼らは完璧な「大人」の真似事を続ける。大人たちの台本通りに、感情を殺し、損得で語る。
その向こう側で、秋夫とあかりが雨音を聴きながら、世界で一番贅沢な時間を過ごしていることも知らずに。彼らはただ、次にくるテストの点数や、誰にどう見られるかという、ひどく狭い檻の中で、静かに消耗していく。

