しゃべる人形

あかりと二人で駅のホームに立ち、吹き込んだばかりの「明日への手紙」を聴く。そんな光景を想像するだけで、僕の心は静かに満たされる。
快速電車が過ぎ去り、静寂が戻ったホームに、今度は僕が吹き込んだ旋律が流れ出した。
「……あきおさん、これ」
隣で立っていたあかりが、不思議そうにスピーカーを見上げた。彼女の横顔が、手嶌葵の透き通るような歌声に照らされている。
僕が選んだのは「明日への手紙」。
それは、今の僕たちに一番必要な言葉だった。
かつては「普通じゃない」と誰かに指をさされ、行き場を失いかけていた僕たち。けれど今は、この手で作ったホームに立ち、僕たちの選んだ音楽を聴いている。過去にどんな痛みがあっても、どんなに社会から疎外されたと感じる夜があっても、こうして新しい明日へと電車は続いていくのだと、そのメロディが教えてくれているようだった。
「僕たちが、僕たち自身のままでいられる場所を、僕たちの手で作ったんだ」
あかりは何も言わず、僕の腕に自分の手を絡めてきた。彼女の体温が、秋の少し冷たい風を遮ってくれる。
僕たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
この快速電車が運んでいく先には、どんな景色が待っているんだろう。少なくとも、この「浜野ガーリック駅」という僕たちの城がある限り、どんな厳しい冬が来ても、僕たちは凍えることはない。
線路の先、遥か彼方へと伸びる鉄路を見つめながら、僕は小さく呟いた。
「明日も、またこの駅で会おう。どんな手紙よりも確かな言葉で、君のことを愛してるって伝えるから」
あかりは「うん」とだけ言って、僕の手を強く握り直した。
快速電車の残した風が、ホームに咲く名もなき花を揺らしている。僕たちの物語は、このメロディと共に、ゆっくりと、しかし確実に未来へと走り出していた。