あの時、僕はこの手紙の件が学級会で糾弾され、袋叩きにされるのではないかと心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。世間一般の常識に照らせば、僕の書き殴った言葉は異常であり、即座に「問題行動」として処理されてもおかしくなかったからだ。
だが、この佐倉高校は違った。ここには、世間の物差しが通用しない、どこか壊れていて、そしてどこか優しい、「普通じゃない」連中ばかりが集まっていた。
ホームルームの時間、担任の上松と部長の佐藤が静かに教壇に立った。僕たちの緊張が頂点に達したとき、上松は呆れたような、しかしどこか温かい眼差しで口を開いた。
「はるかやあんなたちが、あの手紙を見てびっくりしたのは当然だ。世の中の理屈で言えば、確かに異質だし、感染対策だ何だと言われる時代にあって、それは時に『汚いもの』とさえ映るかもしれない。吐瀉物のような、剥き出しの情念かもしれないな」
教室がしんと静まり返る。上松は少し間を置いて、続けた。
「だが、あかりと秋生、お前たちがそれほどまでに相手を想い、愛してしまったという事実は否定できない。誰かを傷つけたわけでもない。世間では問題にされることでも、この学校の中では笑い話……いや、一つの人間ドラマとして、ここは飲み込もうじゃないか」
佐藤もそれに同調して大きく頷いた。上松は僕とあかりの顔を交互に見ると、最後にこう付け加えた。
「そのラブレター、大事にしておけよ。20年、30年経って、この時代が遠い過去になったとき、二人が読み返して笑えるように。それこそが、お前たちの生きた証になるんだからな」
その言葉で、教室に張り詰めていた空気は霧散した。
はるかとあんなも、もう僕たちを責めるような目はしていなかった。はるかが少しだけ照れくさそうに口を開く。
「……別に、いじめようとか、そんな低俗なことは考えてなかったよ。ただ、あかりは友達だから、純粋に心配だっただけ。中学時代の連中みたいに、人の幸せを妬んで引きずり下ろすような、そんな汚い真似は、私たちにはできないから」
正男も、僕の肩をポンと叩いて笑った。
「そうだよ、秋生! 落ち込むんじゃねえよ。お前はお前らしく、あかりを愛し抜いてみろよ。俺たちは、そんなお前らを面白がって見てるだけだからさ」
教室の空気が、ふっと軽くなった。
僕の書いた汚い手紙は、この学校という無菌室のような、あるいは隔離病棟のような特別な場所で、一つの青春の記録へと昇華された。
世間の理屈は、ここでは通用しない。
僕たちは、この場所でなら、どれほど不格好に手を繋いでも、どれほど剥き出しの愛を叫んでも、笑って許されるのだ。
あかりが隣で小さく安堵の溜息をつき、僕の手を握りしめた。その温もりが、僕には何よりも救いだった。
僕たちの「普通じゃない」日常は、こうして守られた。
この手紙を、いつかあかりと二人で読み返すその日まで、僕たちはこの佐倉高校という箱庭で、僕たちだけの愛を紡いでいけばいいのだと、確信した。
だが、この佐倉高校は違った。ここには、世間の物差しが通用しない、どこか壊れていて、そしてどこか優しい、「普通じゃない」連中ばかりが集まっていた。
ホームルームの時間、担任の上松と部長の佐藤が静かに教壇に立った。僕たちの緊張が頂点に達したとき、上松は呆れたような、しかしどこか温かい眼差しで口を開いた。
「はるかやあんなたちが、あの手紙を見てびっくりしたのは当然だ。世の中の理屈で言えば、確かに異質だし、感染対策だ何だと言われる時代にあって、それは時に『汚いもの』とさえ映るかもしれない。吐瀉物のような、剥き出しの情念かもしれないな」
教室がしんと静まり返る。上松は少し間を置いて、続けた。
「だが、あかりと秋生、お前たちがそれほどまでに相手を想い、愛してしまったという事実は否定できない。誰かを傷つけたわけでもない。世間では問題にされることでも、この学校の中では笑い話……いや、一つの人間ドラマとして、ここは飲み込もうじゃないか」
佐藤もそれに同調して大きく頷いた。上松は僕とあかりの顔を交互に見ると、最後にこう付け加えた。
「そのラブレター、大事にしておけよ。20年、30年経って、この時代が遠い過去になったとき、二人が読み返して笑えるように。それこそが、お前たちの生きた証になるんだからな」
その言葉で、教室に張り詰めていた空気は霧散した。
はるかとあんなも、もう僕たちを責めるような目はしていなかった。はるかが少しだけ照れくさそうに口を開く。
「……別に、いじめようとか、そんな低俗なことは考えてなかったよ。ただ、あかりは友達だから、純粋に心配だっただけ。中学時代の連中みたいに、人の幸せを妬んで引きずり下ろすような、そんな汚い真似は、私たちにはできないから」
正男も、僕の肩をポンと叩いて笑った。
「そうだよ、秋生! 落ち込むんじゃねえよ。お前はお前らしく、あかりを愛し抜いてみろよ。俺たちは、そんなお前らを面白がって見てるだけだからさ」
教室の空気が、ふっと軽くなった。
僕の書いた汚い手紙は、この学校という無菌室のような、あるいは隔離病棟のような特別な場所で、一つの青春の記録へと昇華された。
世間の理屈は、ここでは通用しない。
僕たちは、この場所でなら、どれほど不格好に手を繋いでも、どれほど剥き出しの愛を叫んでも、笑って許されるのだ。
あかりが隣で小さく安堵の溜息をつき、僕の手を握りしめた。その温もりが、僕には何よりも救いだった。
僕たちの「普通じゃない」日常は、こうして守られた。
この手紙を、いつかあかりと二人で読み返すその日まで、僕たちはこの佐倉高校という箱庭で、僕たちだけの愛を紡いでいけばいいのだと、確信した。

