しゃべる人形

はるかたちの部屋を出て、冷え切った外の空気を吸い込みながら、僕はあかりの手を引いて歩いた。あかりは何も言わず、僕の歩調に合わせて小走りに着いてくる。
駅までの長い道のり。街灯が点々と並び、僕たちの影を長く引き伸ばしている。僕は耐えきれなくなって、立ち止まった。
「……ごめん、あかり」
僕の声は、自分で思っていたよりもずっと低く、震えていた。あかりが僕を見上げる。街灯の光があかりの瞳を揺らしていた。
「あきおさんが謝ることなんて、何もないよ」
彼女はそう言ったが、僕は首を振った。
「違うんだ。……世の中の『普通』っていう定規で、僕たちの愛を計らせてしまった。あの手紙は、本来ならあかりだけに届く、僕の剥き出しの言葉だったのに。彼女たちを不快にさせ、あかりを嫌な気持ちにさせたなら、それは僕の書き方のせいだ。……これが、僕たちが一緒にいるために越えなきゃいけない、最初の関門なんだよ」
コロナという壁ができてから、誰かと触れ合うことすら「悪」とされるようになった。男女が肩を寄せれば眉をひそめられ、心の内を深く語り合えば「痛々しい」とレッテルを貼られる。僕が書いたラブレターは、そんな息苦しい世間に対する反旗だった。けれど、あかりを傷つけてまで貫くべき正義だったのかと、一瞬だけ胸に棘が刺さった。
しかし、あかりは僕の手をぎゅっと握り返し、ふわりと笑った。
「気持ち悪いなんて、思わないよ。はるかちゃんたちは、あきおさんがそれだけ真剣に、私のことを想ってくれているってことを、まだ知らないだけだもん。あきおさんの言葉は、私にとっては救いだし、誇りだよ。私はね、あきおさんとずっと一緒にいたい。……私をここまで愛してくれる人は、この世界に、あきおさんしかいないもん」
あかりの言葉は、僕の胸の中で温かい火を灯した。彼女は「普通」や「異常」という言葉よりも、僕という存在そのものを信じてくれている。
「……いつか、はるかちゃんやあんなちゃんも分かってくれるよ。あきおさんがどれだけ私を大切にしてくれてるか、私が一番わかってるから。だから、明日また会ったとき、ちゃんと話そう?」
「ああ。……僕から、ちゃんと謝るよ。君を不快にさせるつもりはなかったって。僕たちのこの気持ちが、誰かを否定するためのものじゃなくて、ただ二人が生きるために必要なものだってことを、伝えたいんだ」
あかりは満足そうに頷いた。
僕たちは再び歩き出した。夜の気配が濃くなる中、僕の心は不思議と凪いでいた。はるかたちにどう思われようと、あかりが僕を選び、僕が彼女の手を離さない。その事実さえあれば、どんな高い壁が立ちはだかろうと、僕は何度でも言葉を紡ぎ、この想いを証明し続けることができる。
明日、彼女たちに向き合う僕の言葉は、今日よりもずっと強くなっているはずだ。</code>