しゃべる人形

あかりが広げた手紙の文字を、はるかやあんなたちが視線でなぞっていく。
僕の書いた、あの剥き出しで、泥臭く、世の中への憤りがそのままインクになったような言葉。あかりにとっては「私のための言葉」という輝きに満ちた宝物でも、彼女たちの目には、異質なもの——あるいは、触れてはいけない危険なものとして映ったはずだ。
「……ねえ、これ、本気で言ってるの?」
沈黙を破ったのは、はるかだった。彼女は手紙をテーブルに置くと、あかりではなく、部屋の隅に座り込んでいる僕の方を真っ直ぐに見据えた。その瞳には、かつての友情とは違う、鋭い拒絶と冷めた感情が混ざり合っている。
「愛してるって書くのには、もっと別の言葉があるでしょ。わざわざ社会がどうだとか、みんながどうだとか……なんでこんなに、あかりちゃんを追い詰めるようなことばかり書くわけ?」
あんなも同意するように、小さく溜息をついた。
「そうだよ、あかりちゃん。これ、もはやラブレターっていうより、何かに抗ってる叫びみたいだよ。ちょっと怖いよ、読んでると」
その言葉に、あかりが「えっ?」と戸惑った顔をする。彼女は自分の世界と、僕が書きなぐった世界が、彼女たちの目にはこれほど異質に映るということを、まだうまく飲み込めていないようだった。
「そんなことないよ! これ、私だけを見て書いてくれたんだよ!」
あかりは必死に僕を庇うように声を上げた。けれど、はるかは冷ややかに笑った。
「あかりちゃんが幸せならいいんだけどさ。でもこれ、あかりちゃんが書かせたの? それとも、この人が勝手に押し付けたの? どっちにしろ、見てて痛々しいよ。普通じゃないよ、この関係」
「普通じゃない」——その言葉が、心臓を直接抉った。
僕がずっと無視してきた言葉。この狂気じみた情熱が、世間という枠組みの中では単なる「異常な執着」として処理されるという、残酷な事実。
あかりは言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。僕と彼女の間に流れていたはずの濃密な空気が、はるかたちの冷ややかな視線によって、どんどん薄まっていく。
「……行こう、あかり」
僕は立ち上がり、あかりの腕を掴んだ。その力は、自分でも驚くほど強かったかもしれない。
あかりは少し痛そうに顔を歪めたが、抵抗はしなかった。
部屋を出る直前、はるかが背中に向かって低い声で言った。
「あかりちゃん、自分のこと、大事にしてね」
その言葉は、まるで「僕と一緒にいることが、あかりを壊している」と言っているように聞こえた。
帰り道、僕たちは一言も喋らなかった。あかりの手は冷たく、どこか僕の指先から逃げ出そうとしているような、そんな危うい距離感があった。僕は心の中で、彼女を傷つけたことへの自責よりも、僕の愛を「痛々しい」と切り捨てた彼女たちへの、煮えくり返るような怒りを噛み締めていた。
あかりを、僕のものだと証明したい。
彼女たちに、僕たちが踏み込んでいるこの場所が、どれほど美しく、そしてどれほど孤独で狂おしいものなのかを、いつか突きつけてやりたい。
あかりの手を握る力に、さらに深く力がこもった。
もう、誰の言葉も僕たちを分かつことはできない。そう信じることでしか、僕は自分を保てなかった。