「きらい。楽しくないもん」



誰かも分からない女の子が私の隣に座るから,私は答えるしかなかった。



「どおして?」



私を見つめる真っ黒な目に,居心地の悪さを感じる。

この子はきっと,海が大好きなんだろう。

そんな子を前に,海の悪口を言うのは,なんだか悪い気がしたのだ。



「塩が目に入って痛いから泳げないし,波は怖いし,くらげはいるし。水着は似合わないし」



どんどん声が小さくなる。

楽しむいとこや,嫌だという私を連れてきた大人を思い出すと,この子も私の気持ちを分かってくれないのではないかと思った。

だけど,女の子はその気持ちを否定せず,どこか悲しそうにする。



「でっでも! それだけじゃないよ。…綺麗だから」