ポケットの中のおもいで

「薫! 泳げなくても,浮き輪があれば海に浮けるよ」

「浮き輪?」

「わっかのやつ。一緒に来た人持ってないかな」



浮き輪ならもちろん知ってる。

だけど周りの皆をみていて,ただ浮くことの何が楽しいのか分からなかったから,1度も使ったことはない。

うず,うずうず。



「ちょっと,借りてくる……いとこに」



私は方向を決めて,早足で歩きだす。



「だから,海月はここで待ってて?」

「うん! 待ってるね」



海月がふりふりと手を振るのに,私も同じように返して駆け出す。

いつの間にか,とても遠くまで来ていた。



「ハァ,はぁ,はっ」



海月が待ってる。急がなきゃ。

私は,全速力で走った。