ポケットの中のおもいで

「海…」



大していい思い出のない海。

私は一瞬躊躇したももの,既に絶対に楽しいという確信を持っていた。



「…行く」



こくり。

そんな私の手を,海月はなんの躊躇いもなく引いて歩いた。



「つめたい」

「うん。そうだね。暑いからちょうどいい」



海に入ると,海月が嬉しそうに伸びをする。

お風呂みたいに肩まで浸かって,私は砂を落とした。

時々迫る小さな波からは,海月が守ってくれた。

ちゃぷっと,海月が水をかけてくる。



「しょっぱい…」



少し間をおいた私は



「おかえし!」

「きゃははっ」



同じように仕返しをした。

波の音にもかきけされない笑い声が,辺りに響いていた。