「まだ始まったばっかだよ。焦らなくていい」
桜名さんの涙がテーブルに落ちた時、かけた言葉は半分自分に言い聞かせたようなもの。
俺は優羽がいなくなった日からずっと焦っている。上手く生きようと、桜名さんの前を歩こうと。
優羽はそういう事を望んであのノートを書いたんじゃない。
俺が立ち上がって、それからしゃがみこむ桜名さんの手を引いて、二人で並んで歩くこと。
それは俺の力だけでは足りないから、芹沢が反対側を支えてくれる。そして瑞星も。
部活を病欠で休んでいたせいか胃が小さく感じる上、緊張で上手く喉を通っていかない。
優羽と同じものを頼んだ桜名さんは黙々となにかに思いを馳せるように口に運ぶ。
食べている間は、いつまた涙がこぼれるか気が気でなかった。
この日は俺にとって名前を付けたいくらいに特別で。
初めて笑った顔を見せてくれたから。
優羽に笑いかける笑顔は病院で見たけれど、俺自身に向けられたことは無かった。
特別な存在になるなんて欲張ったことは言わないから、桜名さんにとって、気が休まる居場所でありたいと願う。



