「誕生日おめでとう。三月生まれなのに名前が秋頼って、欲張りだね」


「お前の母親に言ってくれ。
...優羽、貰っておいてなんだけどこれ本当に俺のか?」



小さい袋を開けると、中からはやたらと柔いパンダのぬいぐるみが出てきた。この世の悲しみなど何一つ知らないような、呑気な緩い笑顔を浮かべている。



突っ込んでほしいのかと思ったけれど、真面目に選んだのなら文句は言えない。



それでも開いた口はなかなか塞がらなかった。



「これ、弥衣が選んだんだよ」



“弥衣”



その名前を聞く度に胸が変に鳴る。幸い、表情には出にくいから勘づかれたことは無い。



彼女によく名前を出さずに俺の話をしているらしく、「きっと心のゆとりが狭いんだね、癒されるものにしよう」と提案されたと言う。



一体どういう話をしたら、パンダのぬいぐるみを欲しがる男のイメージになったんだろうか。



この二人の雰囲気はよく似ていると感じる。優羽が彼女の話をするのを聞くのが好きだ。



願わくは、このまま幸せに。



だけれどその年の秋、片隅に置かれていた淡い願いは崩れて消えた。