「弥衣はアリスがいいんじゃない」
耳に近い声に思わず一瞬肩があがる。後ろの気配は確認せずともわかるけれど、近すぎやしないだろうか。
由良くんはアリスに出てくるあわてんぼうウサギだったはず。王子様って意見もちらほら、それでも試しにと付けたうさ耳が似合い過ぎていて満場一致だった。
私とお揃いにしたい、とか思ってくれてるのかな。自惚れだと指さされることだろうに、薦める理由なんてそれしか思い浮かばない。
「...白雪姫にします」
「なんで、アリスだってば」
このやり取りが何回か続いて、譲らない由良くんに負けて結局私はアリスを着ることになった。
由良くんに勝ったことなんて、今まで一度でもあっただろうか。
弥衣とお揃いならなんでもいいから、と言ってバイトに向かった月ちゃんもアリスになったけど、大丈夫だったかな。
「弥衣、終わったら屋上」
すれ違いざまに聞こえた声に、前のように頷けない。あのアルバムの写真が頭から離れなかった。今までどう接していたのか分からなくなる程に距離感が掴めない。
それでも、元はと言えば私が頼んだことだ。数式を解くよりも長く頭を抱えて答えを出し、夢宵桜のノートを持って教室を出た。



