かといえ、呼び主を頻繁に間違えるわけではない。
名前のあとに繋がる言葉の内容で誰だっていうのもわかったし、なんだか申し訳なくてあの日以来似ていることを口に出すことも無かった。
けれど、ソファーで二人並んでいる時に「弥衣」と呼ばれると少しの間考えてしまうほど、呼び方の雰囲気が似ている。
優羽のいなくなった世界でも、間違えてしまうくらいに。
「...そろそろご飯食べないと倒れるよ、弥衣」
三回のノックの後、そう言った彼に一瞬優羽を重ねて涙腺が緩む。
声にする前に口をぎゅっと噤んだけれど、顔には出てしまったのかもしれない。
その時から睦希は、絶対に呼び捨てしない。
「弥衣ちゃん」って、不自然な、耳に馴染まないその声音で。
「────だから、だから.....」
「...違うよ、弥衣ちゃんのせいじゃない」
「嘘...」
「俺は居なくならないよっていう意味で呼んでるんだよ。優羽さんと重ねて辛いのは俺じゃなくて弥衣ちゃんでしょ」
気遣いじゃなくて励ましのつもり、と俯く頭を撫でた。
こうやって迷惑をかけているのは分かっていた、つもりだった。
私が向かっていたのは不正解。誰も幸せにならない。
そう分からせてくれたのは、由良くんと夢宵桜のノート。



