「表に見えてる秋だけが秋じゃないよ」
「...じゃあ私が見てる由良くんは誰?」
「そうじゃねえよ。
……例えば、俺の名前呼んで。呼び捨て」
よく分からない要求に戸惑う私の肩を押す。壁の冷たい感触が背中に纏うと同時に「早く」と小さく耳元で呟いた。
「...夏音」
ガンッ!!
すぐ隣の生徒会室の扉が大きな音を立てて閉まった。
噂をすれば、そのドアノブを握っていたのは由良くん本人で。
「...ちょっと力加減間違えた」
「あー、なる、ほど?」
由良くんは無表情でそう一言呟いて生徒会室に入っていった。
急に雷が落ちたような音がして、生徒会の皆さんもさぞかし驚いただろう。
「…わざとでしょ」
固まっていた夏音くんに問いかけると、ハッとして私から離れた。
「怖すぎ...おい、あれが過保護でおさまると思ってんの?もっと別のことだと思わないの?」
「...分からない」
由良くんには私に見せていない何かがあるっていうこと、薄々感じてはいたけれど。
言わないのは言いたくないってことだから。私がそこに入れる隙間かどうかもわからない。
最初の日の彼のように脅迫じみた脅迫をしてみようか。