呪いを解くには充分な聖力を持つ司教や大司教、聖女でなくてはならない。
 あんな小さな女の子に呪いを解く程の聖力が備わっているだろうか。
 リズはたくさんの妖精に好かれているし、アスランにも懐かれている。
(もしかしなくとも……)
 クロウの中で漠然としていた推測が確信へと変わった。

「やはり、リズが次の聖女なのか」
 言葉にした途端、全身がゾクリと粟立つのを感じた。間違いない。リズこそ十年間現れなかった次期聖女だ。
 そうでなければ、呪いが強力な聖力なくして解けるなんてまずあり得ない。
 考えてみればリズが聖女と言われても納得がいく。何故なら呪いに掛かって食べ物が受けつけない身体だったのに、彼女が作ってくれたご飯だけは食べることができた。

 恐らくあれにはリズの聖力が込められていて、食べていくうちにクロウの呪いを浄化してくれていたのだ。
「リズが聖女なら……王都にある羅針盤が聖女の出現を告げる。なのにその連絡がソルマーニ教会に入らないとうのはおかしい」
 リズがご飯を作ってくれるようになって一ヶ月以上が経っている。それなら羅針盤の瑠璃はとうに光っているはずだ。
「それに現聖女であるドロテア様だって自分の身体に宿る聖力の異変に気づくはず……」
 次期聖女が訪れた時、現聖女は聖力の異変に気づくと言われている。羅針盤が光らなくとも、ドロテアは次期聖女の訪れを大神官に知らせることくらいできるはずだ。

「この間から教会本部はどうなっているんだ?」
 クロウが呪われて聖力のある司教を派遣するようヘイリーが頼んだ時から、教会本部内は落ち着きがない。
 もしや聖女の身に何かあったのだろうか。それとも羅針盤が壊れてしまっているのだろうか。
 様々な憶測が一度に押し寄せて、地に足がつかない状況に陥っていると、右耳のピアスが振動した。