妖精三人は顔を見合わせてから頷くと、アクアが最初に口を開いた。
『要塞にいるシルヴァの騎士たちの半数が魔物の毒霧にやられたの。毒の巡りが早いから早くしないと助からないの』
「……っ!!」
 リズはパジャマのまま部屋を飛び出して廊下へと出る。
「早く、お手伝いしませんと!」

 毒に冒されて苦しむ彼らを想像した途端、恐ろしくなって腹の奥底が縮み上がった。
 なんでもいいから彼らの力になりたい。役に立ちたい。だって、彼らはクロウの大事な仲間でいつもスピナを守ってくれているのだから。

 廊下の突き当たりまで全力で走っていると、リズはそこでふと足を止めた。
(でも今の私が応援に入って何ができるんでしょう……)
 不安が頭を過った途端、無力感を感じて動けなくなった。

 薬の作り方は教わっていない。そもそも解毒薬の材料はとても貴重なため入手が困難である上、完全に取り除くには聖力が必要になる。聖力なしでも解毒薬は作れるが重症であればあるほどその効力は薄くなる。
 結局のところ、リズにできることは何もない。

 小さな手のひらを眺めながら俯いて考え込んでいると、イグニスが目の前にやって来る。


『不安なのは分かるけど、まずは落ち着いて着替えようか。それでいつものように美味しいご飯を作るんだ。前にも言ったけど、リズのご飯を食べればみんな癒やされるから元気になるよ』
 ――ご飯を作ればみんなが癒やされる。

 イグニスの言うことは一理ある。しかし、魔物の毒は体内を循環するとメライアが聖学の時間に言っていた。毒に冒されると猛烈な痛みに襲われ、それに加えて魔物の種類によっては他の症状も追加される。当然食べられる状況ではないように思う。