その頃、凪徒とモモは──。

「お前、どうして……?」

 凪徒は花火を見上げていた視線を、モモの前まで登ってきた杏奈へと向け問いかけた。

 白い浴衣地に濃い(みどり)の笹の葉がいやに(つや)っぽい。

 襟足を(ゆる)(まと)め、衣紋(えもん)を少し多めに抜かれたうなじは、周りの視線を集めていた。

「忘れたの? 近くに別荘があって、今はそこに滞在してるの。あなた達のショーも楽しんだわよ。──あの木曜の最後の公演」

「……やっぱり、あの時いたのか」

 杏奈は扇子をヒラヒラと揺らしながら、その後ろでウフフと笑った。

 振られる度に匂い立つ奥ゆかしい白檀(びゃくだん)の香りがモモの鼻をくすぐった。

「何はともあれモモちゃんをキズものにしなくて良かったわね。責任を取ろうって言っても無理な話でしょうし? それで……このデートはその『怪我の功名(こうみょう)』なの? それともブランコから落としたお詫びかしら?」

 扇子で隠された口元は笑っているのかは分からなかったが、明らかに瞳は意地悪そうに細められている。

 モモはその挑戦的とも言える質問に慌てて、

「あ、あの、ここには他のメンバーと来ているんです。先に着いてしまっただけで……」

「モモ、お前は何も言わなくていい」

 背後から右肩に置かれた凪徒の手と言葉で、モモは話半ばにして言葉を途切らせた。