「久しぶり」

そう言う凌太の表情は、人をばかにしたようだった。

生きる世界の違うおヒトなので、バカにしてるんでしょうけどね。

凌太の母親の言葉は一生忘れない。

無視をして凌太の前を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。

「放して」

「俺をたったの500万円で捨てて、今はサレ妻って訳?つくづく俺を安く見てたんだな」

はぁぁぁぁぁぁぁ何言ってんだ??
「だとしたら、あなたのお母様があなたにつけている価値じゃないですか」

「何だよそれ」

凌太の左手を見るがあるはずのものが無い。
ゲッスい奴、こんな男だったんだ。
もう男は信用ならん!

「それより、指輪はしないんですか?家格のあった私よりも素晴らしいお嫁さんがいるんじゃないの」

「500万で売られた俺は独身だよ」

「500万、500万って五月蝿いわね!あなたのお母様にどっかの高級菓子の紙袋に入ったお金はその場で叩き返したわよ。それが500万かは知らないわ」

凌太の表情が明らかに変わった。

「返した?」

「何よ。フィアンセがいたくせに大学時代の遊び相手として私と付き合ってたとか、旦那とどっこいどっこいね、私はゲスを引く力があるみたい。じゃあ、もう話しかけないで」

思いっきり手を振ると、掴んでいた凌太の手が緩んだ。

何だかわからないけど、呆然としている凌太を残してカラオケルームに行くと一曲入れて熱唱してから里子の隣に座った。

「大丈夫?甲斐くん、瞳の跡を追いかけるように出て行ったけどニアミス?」

「いや、ガッツリなんか変なことを言われた」

「ゴメン、まさか来ると思わなかった」

「いいよ、美優の学校が分かったから。今度張り込んで捕まえてみる。もし、本当に高校生なら正人は淫行ってことだよね」

「だよね、張り込みの時は私も行く!有給余りまくってるし」

「本当!水曜日とかは?」

「オッケー」

ふひひひひひ
なんか、悪さをするための打ち合わせをしているみたいで楽しい。


二人でヒソヒソしていると凌太が戻ってきた。

めっちゃ、気分が悪そうだが、私が心配をする立場じゃない。


久しぶりに会った凌太は、好きだったあの頃よりももっと素敵になっていた。

でも、凌太と私の人生は交わることは無い。