その後ろ姿には覚えがあった。

「…っ澪!!」

俯いていたその小さな姿は、ビクッと身体を震わせ、静かに後ろを振り向いた。

「澪…澪ごめん。ごめんなさい。澪の事何も知らなかったのに、あの日僕は酷い事ばっかりぶつけて傷つけたのに、ずっと会いに行かなかった。ずっと後悔してたんだ。ずっと会いたかったんだ。なのに僕は…」

「真昊。ここおいで。座って話そ?」

澪は変わらないあの優しい笑顔で手招きした。

僕はゆっくりベンチに近づき、澪の隣に腰を下ろした。

「よくここ覚えてたね。嬉しい。」

「澪のお気に入りだって。この時間なら夕日見に来てると思ったから。」

「ふふっ。当たり。凄いね、真昊。」
太陽が沈み始め、街を紅く染めていく。

「真昊。長くなるけど、私の話聞いてくれる?」

「うん。今度こそちゃんと聞く。だからなんでも話して。」

少し間が空いてから、澪はぽつりぽつりと話し始めた。

「私ね、3歳の頃から孤児院で育ってるの。お父さんは私を産む前に逃げたみたいで、お母さんは私を育てきれなくて、孤児院の前に私を置き去りにしたの。それからは1度も会えてないんだ。だからね、家族っていうものがわからなくて。真昊がずっと羨ましかったの。」

「私が捨てられたのにはちゃんと理由があって 私ね、‘’色盲”なの。色がね見えないの。生まれつき。私はモノクロの世界で生きてるの。ほら、私の目多分色素が薄いでしょ?色盲の特徴なんだって。私には分からないんだけどね。だから、空が晴れてても曇ってても判別できなくて、この前真昊の事困らせちゃったよね。あのキーホルダーも、沢山色があったけど、何色なのか分からなくて諦めてたの。だから真昊がプレゼントしてくれて本当に嬉しかった。」

「色盲で孤児院育ちだから、周りから普通じゃない目で見られて、虐められて。それで保健室に登校するようになったんだ。」

「真昊が保健室に運ばれてきた時、私と同じ様で違う気がした。真昊があの日言った通り、私と真昊では生きてる世界が違う。真昊は色の着いた世界で私は色のない世界。でも、お互い家族でも学校でも苦しんできたのは一緒でしょ?だからあの日分かり合えると思ってた。だから真昊の気持ちも考えず、無神経なこと言った。ごめんね。辛かったよね。本当にごめん。」

目に涙を貯めながら、辛い過去を吐き出した澪の顔は、何時もよりも明るく見えた。

「僕の方こそ、そんなことも知らずにあんな事言ってごめん。」

「本当はね、もう嫌われたと思ってた。もう会えないって。だから今日会いに来てくれて嬉しかったの。ありがとうね、真昊。」

「勇気は一瞬、後悔は一生。」

「…えっ!?」

「僕がよく聞く曲の歌詞。uraさんって人の新曲だよ。僕この人好きなんだ。」

「…その人に会いたいとか思う?」

「んー。でも本来の姿が分からないからこそ魅力があるっていうか。」

「そっか。私も聞いてみるね。」

「明日、学校おいでよ。僕、君がいないと寂しいからさ。」

「うん!!行くよ!!じゃあそろそろ暗くなったし帰ろうか。」

気づくと辺りは街灯の明かりだけ眩しく光っていた。

「そうだね。じゃあ送るよ。」

「あ、いいの。もう目の前だから。真昊こそ大丈夫?」

「僕は大丈夫。じゃあまた明日。」

「うん!!またね。」

僕達は公園の入口で別れ、僕は急いで家に戻った。