保健室の奥に置かれた3つのベッドの内、一番窓側が私ー峯岸 凛(みねぎし りん)ーの特等席。


窓から教科書を照らす光が眩しくて、思わず目を細めてしまう。


「無理です、これ出来ません。ちょっと休憩」


大嫌いな数学の問題文を睨みつけていた私は、大きな音を立てて教科書を閉じてベッドの隅に追いやった。


保健室登校を続けている私には、滅多な事がない限り教科の先生が直々に教えてくれる事はない。


職員室に行ったり友達に聞けばいいだけの話なのに、いつの間にか、私はそんな簡単な事も出来ない程に落ちこぼれてしまったんだ。


顔を上げれば、机に置いたパソコンと向き合っていた養護の先生と目が合って、


「自分のペースでやれば大丈夫よ」


労うように声をかけてくれた。


「はい。あ、今何時ですか?」


「今は11時過ぎ。一昨日から来てなかったし、多分もう少しで来るんじゃないかしら」


「ですね」


大きく伸びをしながら尋ねると、思わず笑顔になってしまう一言が彼女の口をついで出た。




この高校に入学して1年と少しが経ったのに、教室で授業を受けたのはたった1ヶ月弱。


やっとの思いで作った数少ない友達とはもう連絡を取っていないし、多分2年生で私の事を覚えている人はほとんど居ないんじゃないかと思う。