「名前なんて言うの?せっかくだから一杯飲まない?」
「み、未成年ですけど」
「はは、酒じゃねーよ。珈琲だよ」


こーひー??一杯飲まない!?みたいな言い方はお酒かと思ってしまった。そう言われてみれば、この辺りはいい香りがする。


「滝さん、絡まないで。ほら、瑠奈も学校行くんでしょ?」


何でこんな場所にいるの。と言いながら瀬戸くんは私の肩を押して路地に向かう。そんな瀬戸くんからも、珈琲の香りがした。


「珈琲飲んでたの?」

「うん。知り合いの店でね。手伝ってたんだ」


学校サボって?と聞こうとしたが強制的に足が止まった。


「せっかくだから、ご馳走するよ。どうせ授業間に合わないだろ?」
 

滝さんは半ば強引に瀬戸くんを引きずっていったので、私もついて行くことにした。一人で路地を抜ける勇気はなかったから。

瀬戸くんの見たことないような表情が見れた。やさぐれてるみたいな顔!だから少し楽しくなっていた。


カランコロンと音を鳴らして開いた扉の向こうは、とてもレトロなお店だった。可愛い。

滝さんにカウンターに座らされて、瀬戸くんは諦めたのかおとなしく座っている。


「珈琲飲める?」
「あんまり飲んだことがないかも」

結構甘いものが好きだから。香りは好きだけどね。


「そっか。滝さんの珈琲は美味しいから、きっと瑠奈も好きになるよ」


机に伏せて顔をこちらに向けたまま、瀬戸くんはにこりと笑ってそう言った。何だろう。ずるい。
学校では見せないような瀬戸くんの緩んだ顔に少しだけドキッとした。