天気のいい昼前だと言うのに、薄暗いこの場所は全く違う場所のように感じる。
カーディガンの裾を握った。

変な場所に来てしまった。

キョロキョロ辺りを見て来た道を引き返そうとした時、カランカランと音が鳴った。少し篭ったようなその音は、ある店の扉が開く音だった。


「龍司、またこいよ」


……龍司?
どこかで聞いたような名前に足を止める。そしてレトロなレンガ調の店から出て来たのは瀬戸くんだった。龍司…そうか。瀬戸くんの名前。


「瀬戸くん?」

こんな場所で知ってる人に会えるとは思わなかった。ただの迷子だったけど安心した。


「……瑠奈?」


目をパチパチさせてこちら側に歩いてくる瀬戸くんは、学ランを今日もピシッと着こなしている。


「こんな所で何してるの?」

「私のセリフだよ?学校始まってるよ」


それは瑠奈もじゃん、と少し笑った。まさかこんなところで瀬戸くんに会えるなんて。この場所も知ってそうだから大通りまで連れて行ってもらおう。


「あれ、龍司が女の子と喋ってる」


めっずらし〜と言いながら、瀬戸くんが出て来た扉から、男の人が出て来た。


「クラスメイトです。(たき)さん、はやく開店準備した方がいいんじゃないですか?」


出てきた男の人を滝さんと呼んだ瀬戸くんは、呆れ顔でそう言う。

少し気分が落ちていたけど、なんだかホッとしたよ。