拭かなきゃ、そう思いながらかばんに手を伸ばす。だが、私がハンカチを取り出す前に頬に温かいものが触れた。

「んっ!ちょっと、ロメオ!」

ロメオの体を精一杯押してみるも、彼は離れることがない。しばらくして、ロメオは満足そうに笑いながら離れてくれた。

「ごちそうさま」

「あんたねぇ……!」

顔が真っ赤になっていく。だけど、ここはイタリア。こんなスキンシップは日常茶飯事だし、外でもイチャイチャしているカップルは普通にいるから変な目で見られたりはしない。そこは安心だけど……。

「ねぇ、アリーチェ」

私の顔の熱が落ち着いてきた頃、ロメオに名前を呼ばれる。顔を向ければ、彼は真剣な顔をしていた。道を歩いていたらナンパをしてきた時とは大違いで、こんな彼の顔は初めて見る。

「俺たち、お試しじゃなくて本当にお付き合いしない?俺はそうしたい」

トクン、と胸が高鳴るのがわかる。私はコクリと頷いた後、震えている彼の手をそっと包んだ。