「あれから透や兄さんとも相談して、学校くらいなら行けるだろうってことになったんだ」
「そうなんだ……。よかったね、透くん」

 そう言うと、透くんは花が咲くみたいににっこりと笑う。

 嬉しそうな笑顔……。

 本当によかった。あたしはじんわりとにじんできた涙がばれないように、あわててうつむいた。

「……これからよろしくね、ここみちゃん」

 透くんはニコッと笑って、あたしに手を差し出した。

 あたしは油断した。
 でも、あたし悪くない。普通、こんなシチュエーションで、仕掛けてこないって思うもん。
 透くんの手を取り、握手を交わして――それが素手だって気づいたときにはもう遅かった。


「ひいぃっ!」


 道路にあふれ返った、お化け、お化け、お化け!
 頭がない! 足がない! ないない尽くしのオンパレードに、あたしはクラっとめまいを起こす。

「あぶない!」

 透くんがあたしをさっと抱き留めた。
 咲綾の黄色い声がする。
 ううん、ちがうよ咲綾、これ、そういうのじゃない。

「あぶなかったね、ここみちゃん!」
 透くんはクスッと笑うと、あたしの耳もとでささやいた。

「このくらいで倒れてちゃ、まだまだだね」
「この卑怯者……!」
「あれ、受けて立つって言ったのだれだっけ?」

 あたしはぐっとくちびるをかんだ。くそ……! 言い返せない!

「お仕置き、こんなもんじゃないからね。覚悟しておくように」
 うそ、まじで。
 血の気が引いたあたしに、昭くんがやれやれと肩をすくめた。





 まだまだ暑い、二学期が始まる。
 あたしの肩の上で、うなぎが楽し気にキュルルっと鳴いた。