「そうだ、これ」
 透くんはあたしの手を取ると、そっと小さなものを握らせてくる。
「これは……?」
「お守り。僕の念をこめてある」

 手を開くと、ちょうど手のひらに収まるくらいの袋だった。和布でできた袋の中に、何か固いものが入っている。なんだろう。袋の中を見ようとした手を、そっと抑えられる。

「開けちゃダメ。効果がなくなっちゃう」
「あっ、ごめん」

 そうだよね、お守りってそういうものだ。
 透くんはふんわりと笑った。

「あれから考えて。僕にもできることあるかなって思ったんだ。だから、これ、持っていって」
 まるでお花みたいにキレイに笑う透くんを見て、あたしはなんだかほわっとした気分に包まれる。

「うん。……ありがとう」

 うれしい。あたしはお守りをぎゅっと胸に押し当てると、持ってきていたボディーバッグにくくりつけた。

「じゃ、行ってきます」
「うん。――気をつけて」

 玄関を開けると、夏の容赦ない日差しがおそいかかってくる。
「遅い」
「ごめんってば」
「じゃ、行くぞ」
 ゆらゆらと陽炎が立ちのぼる、夏のお昼過ぎ。あたしは昭くんと一緒に歩きだした。


  ◆◆◆


「今回は、この橋だ」
 昭くんに連れられて向かった先は、すぐ近くの橋だった。
 石で作られた古い橋だ。手すりはない。のぞきこむと、下に川がちょろちょろと流れている。