最初に見えたのは、ぎょろりとした目。
 異様に大きい。キラキラと輝く目が、あたしを見ていた。

「え……?」
 目の前の異様な光景に、あたしは一瞬、ぽかんとしてしまう。

 『それ』は、頭だ。人間の、男の人の頭。
 でも、普通の人についているはずの胴体がない。頭から直接手足が生えていて、しかもそれがさかさまについている。

 なに、これ。
 なにかのイベント……?

 男はやけに大きい目を輝かせ、あたしを見つめてニヤっと笑った。
 に……逃げなきゃ。

「……はっ」

 うまく息がすえない。男はあたしを見つめたまま、口を三日月の形にして笑った。その口からぞろりとはみ出した舌の先から、ぽたぽたと赤い血が垂れている。

 ヤバい、ヤバい……!
 逃げなきゃ。
 でも、足が動かない。
 逃げなきゃ!
 早く!

 あたしは弾かれるようにかけ出した。

 後ろをふり返っちゃいけない。早くここから逃げて、人のいるところまでいかなきゃ。そう思っているのに、走っても走っても元の場所に戻れない。このお社まで一本道だったはずなのに、あたしはどんどん深い森の奥に入ってしまう。

 もう息が上がってる。これ以上走れない。のどがカラカラで、うまく息が吸えなかった。
 見つかる前に、かくれなきゃ。かくれて、あいつをやりすごそう。


 あたしは近くの大きな木の影に体をかくし、必死で息を殺した。

 ずる、という足音が聞こえる。
 
 いる……!


 あたしは浅く息をつむいだ。